溺れるほどの愛は深くて重く、そして甘い
 
 そうは言うものの、明日も仕事。
 さすがに影響を出すわけにもいかず、ある程度のところで手を打ってもらうことになった。

「まーた傷つけて。いつ嚙んだ?」

 ベッドに押し倒されながら、唇を指で撫でられる。
 子どもを嗜めるような口調ではあるが、相反するように行動は大人だ。そのギャップにクラクラする。

「…さっき、エレベーターの中で噛んだ」
「ダメだろ?これだけ傷付いたら血も出ただろうに」

 まるで勿体無いとでも言いたげな口調。ペロリと舐められてしまえば、身を固くする他ない。

「美咲に傷をつけるのは、俺だけで在りたい」

 前にも聞いたような言葉。それは冗談ではない雰囲気を帯びている。

「…噛みたいの?」
「……俺のものだという証をつけたい」

 その言葉と共に、強請るように擦り寄られる。それでも、「いいよ」と言うまで待ってくれる。まるで忠犬のようだ。

「美咲」
「…ずるいよ」
「駄目か?」

 コテンと首を傾げられてしまえば、もう無理だ。目を閉じたまま、降参するように何度も頷いた。

「いい、から。……でも、痛くは、しないで」

 尻すぼみになりながらも何とか伝えると、するりと首筋を撫でられた。くすぐったさに身を捩ると、唇が当てられる。
 そのまま、ジュッと強く吸われた。ビリビリとする柔らかい快楽に、思わず小さな声が漏れた。

「気持ちいいのか?」
「くすぐったかった、だけ」
「素直になれよ」

 遊ぶように軽いキスを繰り返される。ぬるま湯のような熱に微睡んでしまう。
 
「眠たいか?」
「…ちょっとだけ」
「明日も仕事だし、この辺にするか」

 ポンポン頭を撫でられると、本格的に眠たくなる。彼の服の裾を掴むと、優しく笑われた。

「おやすみ、美咲。いい夢みろよ」
「ん、智弘もね。…おやすみ」
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