溺れるほどの愛は深くて重く、そして甘い
「で、どうなの?」
お酒もだいぶ回ってきた頃。
すでに2時間ほど飲み続けている環境下で交わされる会話は、段々と踏み込んだものへと変わってきていた。
「何が?」
「智弘くんのことだよ〜」
凛から、ニヤニヤとした目を向けられる。何かの期待を込めた視線だが、生憎面白い話はない。
「何もないよ」
「何もない人のことを、そんなにチラチラ確認しないと思うんだけど?」
変わらない笑顔でそんなことを言われる。
普段は天真爛漫のような立ち振る舞いをしている凜だが、ここぞという所で鋭さを見せていた。これは高校時代から変わらないこと。人のことをよく見ている。
「まあ、…でも、面白い話がないのは本当だよ」
「でも同棲してるんでしょ?」
「……誰から聞いたの」
「あれ、当たっちゃった?」
その言葉で、カマをかけられたのだと察する。いつもなら気づけるというのに、やはりアルコールは侮れない。
先ほどから試すような口調で転がされ続けているが、素直に話さないこちらも悪い。小さく頷くと、可愛らしく笑われる。
「別れてないらしいとは聞いていたけど、まさかここまで長続きするとはね。びっくりだよ」
「私もだよ。智弘は飽き性だと思ってたんだけどね」
私の言葉に、凛はパチクリと目を瞬いた。
「…美咲は、智弘くんに飽きて欲しいの?」
「え?違う違う!そうじゃなくて、」
一瞬、言い淀んでしまう。
それを誤魔化すようにジョッキに口をつけると、凛も真似た。
「……私は、智弘の枷にしかならないと思うんだよ」
「枷?」
目の前の枝豆をつまみながら、小さく頷く。
「ほら、私はご令嬢でも何でもないじゃん。そんな私と智弘が一緒にいても、デメリットしかなくない?」
「令嬢かどうかなんて、気にしなくていいんじゃない?今の時代にお家柄の話なんて、滅多に聞かないよ」
そう言いながら、凛は追加でハイボールを注文した。