溺れるほどの愛は深くて重く、そして甘い

 無理してあげた口角が、段々と下がってくる。

「……美咲、無理しなくていいよ」

 視線とは裏腹に、優しい慈愛のこもった言葉。

 一瞬、涙腺が緩む。

「他言しないし、吐き出しちゃいな」

 その言葉は、今の私にはあまりにも甘かった。

「…信じられないよ」
「………」
「あんなに沢山のものを持ってる人たちと会ってる智弘が私を捨てない保証なんて、どこにもないじゃん」

 溢れる涙を止められるわけもなく、ポタポタと落ちる。

「無償の愛が怖い。周りからの目も怖い。どれだけ頑張っても、私の存在は智弘の枷になってるの」
「……」
「お飾りになりたくなくて秘書として頑張ってるけど、それでも結婚はまた違うよ」

 いよいよまともに話せなくなってきて、しゃくり上げてしまう。美咲は優しく背をさすってくれる。

「智弘くんのことは好きなんだよね?」
「…好きだからこそ、私じゃ駄目なの」

 つい、諦めたような笑いが漏れた。
 好きだからこそ幸せになって欲しい。ただ、その場に私がいないだけ。

「美咲、疲れちゃったでしょ。一旦寝ちゃいな。あとのことに関しては、智弘くんに任せておくから」

 いつの間に隣に移動したのか、凜は優しく背を摩ってくれる。その優しさと温かさに、カクンと頭が揺れた。そういえば、最近は忙しくてあまり寝られていなかった。折角の場だというのに、眠気に勝てない。
 
 周囲の言葉が朧げに聞こえたまま、今度こそ瞼が下がる。そして、意識を手放した。
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