溺れるほどの愛は深くて重く、そして甘い
「…今からが良かった?」
「いや、違う。別に俺は、相手をしてほしかったわけじゃない」
「あ、違った!?それこそ失礼だったよね!?ごめんなさい!言い訳になるんだけど、私にできることはそれぐらいしかないと思って…」
なんだか調子が狂う。智弘が、いつもの智弘じゃない、気がする。
やりたいことや言いたいことがあるのなら、端的に伝えてくれることがほとんどだ。こんなにも表情が読めないなんて、いつぶりだろう。
「俺は、美咲とデートがしたい」
「でーと?」
「どこか行きたいところはないか?」
若干照れた様子を見せながら、そんなことを聞かれる。
(え、何、怖いんだけど。まだ夢なのかな。でもさすがによく出来すぎているというか…)
「美咲? おーい、気持ち悪いか?」
「げ、現実…?」
「……ものすごく失礼なこと考えてるだろ」
ジトっと睨まれるも、仕方ないだろう。あまりにもいつもと雰囲気が違う。
「い、いやいや、まさか! えーっと、どこがいいかなって考えててさ」
「どこでもいいぞ。今回は貸切とかはしないから」
「え、ほんと!?」
思わぬ発言に、これまた驚く。大抵は貸切になることが多かったため、遠慮して本当に行きたい場所を言えなかったのが常だ。貸し切りにしないなら、一度智弘と行きたかったところがある。
「じゃあ…水族館に行きたいかな」
「おっ、いいな」
「……っていうかさ、私の行きたいところじゃ駄目じゃない?智弘へのお礼だし…」
「俺は、美咲とデートがしたいだけだ。正直美咲がいてくれるのなら、場所はどこでもいい」
なんて優しい言葉だろう。でも、本当に珍しい提案だ。
多分、同窓会で変な影響でも受けたのだろう。どうせすぐにブームは去ると、自分の中で落とし込んだのだった。