溺れるほどの愛は深くて重く、そして甘い
座って始まるまでの間、私たちは何でもない話をしていた。しかし、先ほどから視線を感じて仕方ない。
そちらを見ると、大学生らしい2人組の女子が異様に盛り上がっていた。
「あの人、格好良くない?」
「ね!やばすぎ!連絡先交換できないかな?」
「でも隣にいるの彼女さんでしょ」
「指輪してないならまだ勝機あるって!」
「もー、やめなよ」
そうか。最近は2人で公共施設に出かけることが少なかったから忘れていたが、智弘は整った容姿をしている。それこそ、私なんかには勿体ない程だ。
(逆ナンされるなんて、よっぽどのことだろうに)
容姿という点においても、私と彼の間には高い壁があった。
それを、嫌でも感じてしまう。
「美咲?」
「ぇ、あ、ごめん。なんだっけ?」
女子2人の言葉に耳を傾けすぎたせいで、肝心な智弘の言葉を聞き逃していた。心の中で反省しつつ、彼を見上げると不満げに唇を尖らせていた。
「…何を考えていた」
「ご、誤解だって!」
「……まだ何も言ってない」
不満げな表情に加え、眉間に寄った皺。この顔も整っているのだから困ってしまう。
「いやー…」
なんて言い訳しようか考えていると、智弘はわざと見せつけるように手を繋いできた。
「俺の話はつまらなかったか?」
「違うよ!?」
慌てて否定するも、わざとらしく悲しい顔をする智弘。
「俺は美咲のことしか見ていないというのに」
泣くふりをしているものの、時折見せる表情は悪戯っ子のそれだ。明らかに女子2人組に対する演技。
「…私には勿体ない言葉ね」
「そんなことない。素直に受け取ってくれ」
俺から美咲に送る言葉に嘘はないから、なんてダメ押しのように付け加えられれば、もう何も言えない。
『まもなくイルカショーが開演いたします』
手札が切れた辺りで、開演を知らせるアナウンス。
ほっと息を吐き、無理矢理話を終わらせたのだった。