溺れるほどの愛は深くて重く、そして甘い
 その動きは自由気ままさを醸し出しつつも、どこか優雅だ。

「まるで空を飛んでいるみたい」
「……」
「神秘的だよね。こんなにも美しい生き物が存在しているなんて信じられないなぁ」

 話題が変わったからか、逃がさないとでも言うように手を握られる。なんて健気だろう。

「…同じ命でもここまで違う。なら、同じ愛でもきっと1人1人違うはずだよね」
「どういうことだ」
「『好きな人から離れること』。それが私なりの愛し方だよ」
「本気なのか」

 鋭い目で、容赦なく私のことを睨みつけてきた。責めるような目に、私は曖昧に笑うしかない。

「私はいつだって本気だよ」

 その言葉に、智弘は唇を噛んだ。散々私には「唇を噛むな」とか言っておきながら、自分はいいのかな。
 そんな思いから、無意識の内に彼の唇に手を伸ばそうとしていた。しかし、手は包まれたまま動かせない。

「ねぇ、くちびる」
「俺はどうしたらいい」
「え?」

 言葉を遮った彼は眉間に皺を寄せて、苦しげに呟いた。

「俺は、どうすれば美咲に愛を受け取ってもらえるんだ」

 それは、思わぬ角度からの言葉だった。まさか智弘がここまでのことを言うなんて、全く予想していなかった。しかしあまりにも辛そうだから、何とかしたい。
 彼は、私の好きな人だから。少しでも苦しそうな顔はしてほしくない。

 
「__私のことを信じて」

 
 それは口をついて出た言葉だった。
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