溺れるほどの愛は深くて重く、そして甘い
「私のことを信じてほしい。私の選択肢を潰すんじゃなくて、私にも智弘のことで自分の意思で選ばせて」
「……」
「信じてくれるなら、きっと私はあなたのことを選ぶ」

 繋いでいる手を解き、小指を結ぶ。それは、指切りの約束。

「私自身の手で智弘のことを選んだ日には、『離れることが愛』だなんて言わない。そして間違いなく、真正面から智弘の愛を受け取ってみせる」

 その言葉と共に笑って見せるも、彼は黙ったまま。これで通じなかったら、今度こそ諦めよう。
 そう思っていた時、小指がギュッと強く結びついた。

「分かった。でも、俺からも1つお願いしたいことがある」
「な、なに…?」

 何を言われるのか見当つかない。
 思わず顔をこわばらせていると、智弘は頭を振った。

「そんなに怯えないでくれ。ただ、美咲の本音をどんどん聞かせてほしいと思ったんだ」
「え、今までも伝えていたけど…」
「なら、今まで以上に教えてくれ。行きたい場所や食べたい物。やりたいことでも、何でも教えてほしい。もちろん、無理のない範囲で言えそうなことを言ってくれればいいさ」

 それぐらいのことなら、と小さく頷く。
 私の反応に、彼は晴れやかに笑った。

「よし、約束だ」

 何を言っても、彼は私に向き合ってくれた。私という人間そのものに向き合ってくれた。
 もしかしたら、家柄や立場に囚われていたのは私の方だったのかもしれない。
 
 そんな事実に、今この瞬間気が付いたのだった。
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