溺れるほどの愛は深くて重く、そして甘い
 あの後、私たちはただただ静かに館内を見て回った。どちらが急かすこともなく、足並みは自然と揃う。
 無言の空間さえも心地よく、いつの間にか穏やかな気持ちになっていた。

『お知らせします。当館は17時に閉館いたします。お客様につきましては、___』
 
 しかし時間は永遠ではなく、館内放送で閉館時間が近づいていることを知らされた。私たちは名残惜しくも、最後の大水槽を後にした。
 出口へと向かう途中には、定番のお土産コーナーが設置されていた。欲しい物があるわけではないが、少し立ち寄りたい。

「ちょっと見てもいい?」

 私が尋ねると、智弘は快諾してくれた。

「ああ、もちろん」

 私たちはグッズが並ぶ棚をゆっくりと見て回る。キーホルダー、タオル、文房具、そして様々なぬいぐるみが所狭しと並んでいた。『当館限定!』という文字と共に、可愛らしいイラストが描かれているポップも見られた。

(智弘とお揃いの物を持ちたいな。でも…)

 私の目に留まるのは、どれも子どもっぽいデザインのものばかり。大企業の御曹司である智弘に、これらを持たせるのは気が引ける。

「うーん」

 私は小さく唸るだけで、結局何も手に取れずにいた。

「気に入ったものはあったか?」

 どこかに行っていたらしい智弘が戻ってくると共に尋ねるも、私は首を横に振る。

「ううん、特にないかな。でも、見ているだけで楽しかったよ。寄ってくれてありがとう」

 本当は、お揃いの何かを思い出として残したい。でも、まだそこまでの勇気は出ない。心は揺れていたが、程なくすれば落ち着いた。
 今日は大きな話ができたし、もう満足だ。
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