溺れるほどの愛は深くて重く、そして甘い
「そうか。ちなみに俺はこれが欲しいんだが、どうだ?」

 そんな言葉と共に、2つのキーホルダーを見せられた。
 一見ただのイルカのキーホルダーなのだが、そのお腹には今日の日付が書かれている。

「すごい。日付が入ってる」
「誕生日や記念日用のキーホルダーらしい。向こうに366日揃っていた」

 なんて商売上手なこと。一周回って感心してしまう。
 場違いのことを考えていると、改めてキーホルダーを示された。

「何でもない日だが、美咲と大切な約束をした今日を俺は大事にしたい」
「…でも、このキーホルダー……」
「可愛いだろ」

 言葉に加え、屈託のない笑顔で笑う智弘。
 そうだった。こうして世間体を気にしていたのは、私の方だ。

「うん。ありがとう。たしかに可愛いね」
「よし、お揃いな」

 それから迅速に会計が済まされ、私たちは水族館を出た。手にはストラップが握られている。その存在が、今日の約束は現実だと物語っている。

「…夢じゃない」
「夢にするな」

 駐車場へ向かう途中、私の呟きに智弘はツッコんだ。一連の流れにどこか安心した。
 良かった。変に気まずくなったらどうしようかと思っていたけれど、その心配はなさそうだ。

「ありがとう、智弘。今日は本当に楽しかった」
「ああ、俺もだ」

 智弘は私の頭を優しく撫でた。
 慣れているはずなのに何とも気恥ずかしかったのは、私だけの秘密にしておいた。
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