溺れるほどの愛は深くて重く、そして甘い
 約1時間半後、私は確認作業を終えた。目標の1時間は超えてしまったが、ミスがない部分を踏まえると合格ラインだ。先輩の状況を見て、いいタイミングで声を掛けた。

「一通り、終わらせました。チェックも問題ありません」

 先輩は、信じられないものを見るような顔で、片付いたデスクを見つめていた。

「ま、前田さん…すごい。本当に助かったよ!ありがとう~!」
「お役に立てたなら良かったです。先輩も、体調に気を付けながら程々に。月末を超えれば何とかなるので、それまでどうか持ちこたえてください」
「うん、頑張るね」
「はい。では、私はそろそろ執務室に戻ります。またいつでも連絡ください」

 フロアを離れる際、数人の社員から感謝の言葉をかけられた。その言葉は、単に仕事を片付けたことへの謝意だけでなく、私の存在を純粋に評価してくれる温かいものだった。仕事をしただけで感謝してもらえるなんて、ありがたい環境だ。

 私はこの会社が、この場所が好きだ。智弘のそばにいられるから、というだけでなく、ここで働く人々と共に成果を出すことに喜びを感じる。元々愛着はあったが、それ以上にやりがいも感じていた。

 このまま、智弘のそばに居続けたい。

 そんな願いが、私の胸を温かくしていた。
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