溺れるほどの愛は深くて重く、そして甘い

「美咲は、どうしたい?」

 不意に、低い声で彼は問うてきた。それが予想外で思わず目を瞬く。

「へ…?」
「美咲はどうしたいんだ?俺はまず、美咲の意見を聞きたい」

 てっきり、開口一番「駄目だ」と言われると思った。いや、今までの彼なら間違いなく言っただろう。
 でも、今は不安げな瞳を揺らして、静かに私の言葉を待ってくれていた。
 
 彼は、水族館での1件を本当に大切にしてくれている。あんな感情のぶつけ合いのようなやりとりでも、彼は真剣に受け止め、事実として信頼の姿勢を見せてくれている。
 それは素直な愛の言葉よりも、愛を感じる部分だった。

「会う以前に断りたい…。けど、諦めてくれない可能性が高いと思うの」
「……それは俺も同意だ。その男は簡単には諦めないだろうな」
「でも、智弘が解雇するのは違う。これは個人間の問題だから、仕事は関係ないでしょ?」
「まあ…そうだな」

 渋々と言った様子で頷く智弘。感情は動いているが、それでも理性的に私の話を聞いてくれている。
 今なら、

「智弘、お願いがあるの」

 彼が本当に私のことを信用してくれるなら、

「私のこと、信じてくれる?」

 それは覚悟を決めた言葉。真っすぐ向けたそれに、彼は深く頷いた。
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