溺れるほどの愛は深くて重く、そして甘い
「智弘は私との約束を守ってくれた。そして、向井君は私との約束を破った。……ここが、2人の決定的に違う所だよ」

 端的ではあるが、それが今起きたことの全てだった。
 先ほどの答え合わせに、今度こそ向井君は苦しそうに呻いた。紛れもない事実で、彼自身にもそれは否定できないことだった。それを彼自身が理解しているからこそ、何も言えないのだ。

 智弘は静かに息を吐くと、私を守るように進み出た。
 
「ずっと見ていたが、はらわたが煮えくり返ったよ。どうやら俺が今まで感じていた嫉妬は、随分甘かったようだな」
「見ていた…?」
「悪いが、後をつけさせてもらっていたよ。案外分からなかっただろう?…ま、美咲は気づいたようだったがな」

 肩を竦めてチラッとこちらを見た智弘に、私は頷いた。向井君は智弘の言葉に食って掛かる。

「ははっ、なるほど。先輩のことを束縛した次はストーカーですか。そんなことするっていうことは、先輩のことを信じていなかったんですか?ああ、それとも俺に靡くんじゃないかって、ずっと不安だったんですか?」
「ほお、随分と面白いことを言ってくれるな」

 智弘は笑うと、

「その逆さ。…美咲のことを信じていたから後をつけたんだ。美咲は、君が約束を破ると予想していたのだからな。触れられた時に、真っ先に助けに行きたいと思ったまでさ」

 勝ち誇ったようにそう言った。
 またもや理解できないといった顔の向井君に、私は言葉を向けた。

「私は、向井君が今日で私のことを諦める気が無いのを察していたの。だから、『約束が破られる前提』で約束を立てた」

 ある意味、向井君のことを信じていた。『きっと私との約束を破るだろう』という意味で。
 
 そして、まんまとその通りになったのだ。彼が約束を破らなければ、智弘が姿を現すことはなかった。何度も言うように、この結末を招いたのは向井君自身なのだ。
< 58 / 60 >

この作品をシェア

pagetop