溺れるほどの愛は深くて重く、そして甘い
 勧められたにも関わらず、動かない私を智弘はじっと見つめる。そして、

「どうした?もしかして、一緒に入りたいのか?」

 冗談交じりに言われた言葉。しかし私は、彼の言葉に頷いた。

「ん…?」
「……なんか、今日1人で居るの怖いから…存分に甘えていいって言ってくれたし、智弘さえよければ一緒に入ってほしいんだけど…」

 言っている途中から羞恥に襲われる。
 こんな事初めて言った。自分の顔に熱が集まるのを感じるほど、居たたまれなくなってしまう。後半なんて、早口で尻すぼみになってしまった。
 狐につままれたみたいな顔をしている智弘を見て、すぐに撤回する。

「いや、ごめん。変なこと言った」
「美咲」
「ちょっと頭おかしいみたい」
「みーさーきー」
「お風呂入ってくれるね」
「美咲さーん」

 じりじりと後ずさりするも、智弘から感じる圧は増すばかり。
 しばらく見つめ合っていたが埒が明かないため、バッと背を向けて走り出す。浴室に飛び込めば勝ちだと思っていたが、それよりも早く捕まる。なんなら、リビングさえも出られなかった。

「逃げるな」
「違う違う違う」
「何も違くないだろ」

 片腕で容易く捕まえられ、空いた方の腕で後ろから壁ドンされる。目の前には白い壁。逃げ場がないことは明らかだった。

「っていうか、急に走ったら危ないだろ」
「う、」
「美咲が素直に寂しいって言ってくれるなんて珍しいからな。この機会を逃すつもりはないから、早々に諦めてくれ」

 体調が万全の時だって負けるのだから、今の状態で勝てるわけがない。両手を軽く上げて、分かりやすく降参の意を示す。

「…我が儘言って困らせてやる」
「ははっ、愛しのお姫様からのお願いだなんて喜ばしい限りだ」

 減らず口なのに、彼は嬉しそうに笑った。
 それから、鼻歌交じりに私のことを抱き上げたのだった。
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