溺れるほどの愛は深くて重く、そして甘い
 ポチャン

 蛇口から水が滴る音と共に、お湯が波打つ。広い浴槽は2人で入っても狭くなく、身体を洗い終わった智弘は私を抱きしめるようにしてお湯に身を沈めた。2人分の熱気が浴室に満ちていく。
 最初こそ遠慮して身を縮めていたが、すぐに力を抜いて智弘の胸板に頭を預けた。

「はー…生き返る」

 ぼそりと呟く。お湯の温度も相まってか、どうにも思考がふわふわして仕方ない。

「一緒に風呂に入るのは久しぶりか?」
「そうだね。多分…だいぶ前に大雨に振られた時以来じゃない?」

 大雨に振られ、ずぶ濡れになった時に仕方なく一緒に入った覚えがある。それでも、こんな風にゆっくりはしていなかった。
 その話を思い出したのか、智弘が笑う。

「ああ、あの時の。お互いに『先に入れ』って言い合った故の折衷案だったな」
「そうそう」

 懐かしいことを思いだしたものだ。本当はもっと思い出話に花を咲かせたいが、それよりも言わなければならないことがある。
 私は心臓が一層大きく脈打つのを感じつつ、そっと息を吐いた。

「あのさ、」

 言わないといけない。そんなことは分かっているが、あと1歩の勇気が出ない。湯面に映る揺れた自分と目が合って、息が詰まる。焦ってしまうせいか、意味もなく深呼吸ばかり繰り返してしまう。
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