溺れるほどの愛は深くて重く、そして甘い
 私を見下ろす彼の瞳は、何とも楽しげだ。そのまま、彼は私の顔から胸元へと視線を移した。服の裾に手が触れ、持ち上げられる。彼は躊躇なく脱がせ、無造作に床へと放った。それだけの衣擦れからも、必要以上の快楽を拾ってしまう。

「っ…」

 肌が空気に触れ、少しひんやりする。ジワリと目元に涙が溜まるのを感じるも全身の感覚が研ぎ澄まされ、嫌に身体が跳ねてしまう。
 彼は私の肩から腕にかけて、何度もキスを落としていく。そのキスは優しく、そして熱い。彼の愛情の深さを物語っていた。

「智弘…」

 私の呼ぶ声は自分でも驚くほど甘く、切なげな響きを持っていた。彼は私の声に耳を傾け、愛しむように私の顔を見つめた。

「美咲。この世の誰よりも深く重く愛している」

 その言葉と共に、彼は全身への口づけを繰り返した。彼の吐息が素肌に触れるたび、私の体はぞくぞくと粟立っていく。

(それだけじゃないでしょうに)

 彼からの愛は深くて重いだけではない。甘さだって存在している。
 だから、どうしようもなく願ってしまう。胸焼けするぐらいの甘さを呑み込ませてほしい。満たして、もっと溺れさせてほしくなってしまう。溺れて、溺れて。息ができなくなった時に、智弘自身の手で掬い上げてほしい。

(なんてね。私も、随分と歪んだ愛を望んでしまうのね)
 
 私を求めるその手の優しさ、口づけの熱さ、彼の存在。それら全てが、心に溜まっていた不安や孤独感を溶かしていくようだった。

「…私も、愛してる。深くて重く、そして甘い、智弘と同じ愛を私からも贈らせて」

 息も絶え絶えに、それでも心からの言葉を口にすると、智弘は顔を上げ、満足そうに微笑んだ。

「ああ、存分に与え合おう」

 そう言って、再び彼は私を求めた。

 その夜、私は智弘の腕の中で、言葉だけではなく肌を通して、彼からの溢れんばかりの愛を全身で受け止めることになった。そして、私からも目一杯の愛を与えた。もう、難しいことなんて何も考えられない。ただ、目の前の智弘の熱と自分の心の高鳴りだけを感じていた。
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