溺れるほどの愛は深くて重く、そして甘い
 この間にうつ伏せに体勢を変える。いや、まじで体が痛い。全力で運動してもこうはならないだろう。

(もう29だもんね。うん、悲しいけれど年齢を認めよう)

 こんなことで歳を感じたくなかったが、仕方ない。
 そんなしょうもないことを考えていると、再び扉が開いた。コップが2つ乗ったトレイを持った智弘は、私を見て首を傾げた。体勢が変わっていることに違和感を感じたのだろう。

「どうした、調子が悪いのか?」
「きんにくつう」

 身体を起こすのを手伝ってもらってから、お礼を言ってコップを受け取る。どうやらハチミツも入れてくれたらしく、ほんのり甘い。

「あー…まあ、昨日のことを思うと筋肉痛も仕方ないか」
「智弘はどこか痛くないの?」

 若干戻りかけている声で尋ねると、彼は頷いた。

「これでも鍛えてるからな。違和感を感じるところもない」
「……私も鍛えようかな」
「このためにか?」

 彼はふふっと笑いながら、コーヒーの入っている自身のコップを傾けた。たしかに、運動を始める動機があまりにも歪んでいる。そんなこと思いながら私も倣うように再びホットレモンに口をつけ、ふと時計を見やる。
 10時40分。いつもではあり得ない大寝坊だ。

「ごめん、寝過ぎちゃった」
「いや、俺もついさっき起きたんだ。着替えてから戻ってきたら、美咲がちょうど目を覚ました感じだな」

 気遣いなのか、はたまた事実なのか。どちらにせよ、彼の優しさに違いない。
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