溺れるほどの愛は深くて重く、そして甘い
 心の中で感謝していると、智弘は静かに私を見つめていることに気が付いた。何となく、いつもとは違う雰囲気を感じる。
 
「実は俺から話したいことがあるんだ。…今、話してもいいか?」
 
 コトリとサイドチェストにコップを置いた智弘は、ベッドの縁に腰かけたままこちらを見た。ただならぬ空気であることを確信した私もまた、コップを置いて背を伸ばす。そして、恐る恐る頷いた。

「…うん」
「ありがとう。実は昨日言っても良かったんだが、今日の方がいいかと思って我慢していたんだ」

__今日の方がいい

 話の真髄が見えないことに首を傾げると、智弘は穏やかな表情で口を開いた。
 それは、今まで聞いた彼の声の中で最も優しいものだった。

 
  「美咲、俺と結婚してくれないか?」

 
 たっぷり5秒。
 あまりの衝撃に、反応できなかった。

「最初は大々的なプロポーズも考えたんだが、こういう日常の中で伝えようと考え直したんだ。美咲との思い出が1番詰まっているのは、この家だから」

 照れたように頬を掻く智弘は、そっと息を吐いた。未だに私からは何の反応も言葉も返せていない。

「みさ、」

 それに違和感を覚えたらしい智弘は、珍しく不安そうな顔で顔を上げた。そして、私の顔を見て固まった。

「…返事、聞いてもいいか?」

 彼の大きな手が、私の頬を包む。涙を拭われた時、ようやく自分が泣いていることに気が付いた。

「っ…はい。よろしくお願いします」
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