溺れるほどの愛は深くて重く、そして甘い

 翌朝、休みであったことに感謝するほどの身体の倦怠感に、思わず呻いた。
 起き上がるのも怠くて、ベッドの上で脱力していると、智弘は静かに問うてきた。

「まだ別れたいか?」

 上裸のままベッドのふちに腰掛けた智弘の姿は、まるでモデルのようだ。12年も付き合ってまだそう思ってしまう自分に嫌気がさす。

「…ずる」
「ははっ、よく言われる」
「でも、諦めてないから」

 寝返りを打って彼に背を向ける。これ以上見てると、決意が揺らぎそうだから。

「まだ別れられると思ってるのか」
「え?」
「俺が美咲の外堀埋めるのに、どれだけ時間をかけたと思ってんだ?」

 ベッドが軋む。背を向けたはずの彼は、私の肩を押して覆い被さってきた。その目は楽しげに揺れる。

「絶対に逃さないから」
「…智、弘?」
「どうやら俺は、人一倍嫉妬深くて愛が重いらしいんだ。だから、余すことなく受け止めてくれよ?」
「き、聞いてない、」
「言ってないからな」

 昨日の仕返しかのように、そう言われてしまう。つい下唇も噛むも、こら、と怒られて唇を指でなぞられる。

「美咲に痕や傷をつけていいのは、俺だけだ。それは美咲自身でも許さないからな」
「前から唇噛むのを怒る理由って、」
「そういうこと」

 色々な部分の合点が入ってしまい、クラクラする。

 愛に溺れる、なんて話は聞くが、まさか自分が経験するとは思っていなかった。

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