子供ができていました。でも、お知らせするつもりはありませんでした。
このセリフ、極秘出産した子供に対して真摯に向き合う誠実なもの。だが、その彼の声には気まぐれで仔猫でももらうかのようかのような軽い感じがあった。この言葉と口調のちぐはぐ感が、どうも美月には引っかかった。
さらに佑は続ける。
「もちろん、この子の将来を考えれば、今すぐにでも我々は入籍をし、家族の形を整えるのが当然のこと。幸いにも、まだその子は未就園児だ。人生の最初の段階で躓くことなくスタートできる。以上を踏まえて、あなたにも入籍してもらいたい。よろしいでしょうか?」
なんと、佑は拓海を認知するだけでなく美月と結婚するという。美月は奇妙なプロポーズを受けたのだった。
***
四年前のあの日は、朝から雨が降っていた。ザーザー降りという激しいものではなく、穏やかにしとしとと降る雨だった。
美月が佑を見つけたのは、夕方の雨の表路地である。彼は傘もささず、うすぼんやりと雨に煙る街角で呆然と立ちすくんでいた。
いつからそこにいたんだろうか?
小雨とはいえ、すっかり彼の肩はぐっしょりと濡れていた。
美月はビジネスショーでの見学を終えて、連泊先のホテルに戻ることろであった。トラムの停留所までの路上で、偶然そんな佑を見つけて、美月は足が止まってしまった。
(この人 さっき会場にいた人よね? )
(ちょっと様子が変なんだけど……)
ビジネスショーですれ違う人は、たくさんいる。けれど開催会場がヨーロッパとなれば、日本人はあまり多くはない。その数少ない日本人で、かつ美月はついさっき彼のプレゼンを目にしていた。自身よりも大きな体の欧州人に臆することなく、堂々と営業をする姿を、だ。
この彼については、名前と社名しか知らない人である。でも自分も日本人だからなのか、同郷の人間として血が血を呼んでいるような感覚がして、ひどく彼に惹きつけられる。
よせばいいのに美月は、気がつけば佑に傘を差し出していたのだった。
さらに佑は続ける。
「もちろん、この子の将来を考えれば、今すぐにでも我々は入籍をし、家族の形を整えるのが当然のこと。幸いにも、まだその子は未就園児だ。人生の最初の段階で躓くことなくスタートできる。以上を踏まえて、あなたにも入籍してもらいたい。よろしいでしょうか?」
なんと、佑は拓海を認知するだけでなく美月と結婚するという。美月は奇妙なプロポーズを受けたのだった。
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四年前のあの日は、朝から雨が降っていた。ザーザー降りという激しいものではなく、穏やかにしとしとと降る雨だった。
美月が佑を見つけたのは、夕方の雨の表路地である。彼は傘もささず、うすぼんやりと雨に煙る街角で呆然と立ちすくんでいた。
いつからそこにいたんだろうか?
小雨とはいえ、すっかり彼の肩はぐっしょりと濡れていた。
美月はビジネスショーでの見学を終えて、連泊先のホテルに戻ることろであった。トラムの停留所までの路上で、偶然そんな佑を見つけて、美月は足が止まってしまった。
(この人 さっき会場にいた人よね? )
(ちょっと様子が変なんだけど……)
ビジネスショーですれ違う人は、たくさんいる。けれど開催会場がヨーロッパとなれば、日本人はあまり多くはない。その数少ない日本人で、かつ美月はついさっき彼のプレゼンを目にしていた。自身よりも大きな体の欧州人に臆することなく、堂々と営業をする姿を、だ。
この彼については、名前と社名しか知らない人である。でも自分も日本人だからなのか、同郷の人間として血が血を呼んでいるような感覚がして、ひどく彼に惹きつけられる。
よせばいいのに美月は、気がつけば佑に傘を差し出していたのだった。