キミを好きになるまで、あと10秒
その時の彼の表情が、ひよりの胸にずっと残った。

言葉にはできない、けれど確かな何かが、静かに動き出した気がした。

教室のざわめきや時計の秒針の音。すべてがいつもよりゆっくりで、温かく感じられた。

ひよりは、何度も自分の手を見た。

成瀬の手と触れたその感触が、まるで忘れられない小さな魔法のように、胸の奥に溶けていった。

その瞬間から、彼のことを考えない時間がなくなっていくのだと、ひよりはまだ知らなかった。
< 3 / 8 >

この作品をシェア

pagetop