推しが隣に引っ越してきまして 〜月の裏がわ〜
土曜日。
溜まった洗濯物を洗濯しようとしたら、洗濯機が壊れた。
仕方ないのでコインランドリーに行くことにした。
「よっこらしょ」
洗濯物を入れた大きめの鞄を抱えて家を出る。ドアに鍵をかける。
ふと、隣でドアに鍵をかける眞鍋が目に入った。
「あっ」
「おっ」
ほぼ同時に声が漏れた。
「お疲れ様です。」
ぺこって頭を下げてコインランドリーに向かう。
「あっ」眞鍋が何かを言いかける。
振り向くと、「あ、いや……」と言い淀んだ。
なんだろう。
すると、佑月くんの家のドアがガチャって開いて、佑月くんが顔を出す。「眞鍋——。」
眞鍋を呼び止めて、それからすぐに、私に気づく。「あ、凛ちゃん。」
佑月くんのおでこには、冷えピタ。
「!?」
ドサッて洗濯物の入った袋を落とす。
佑月くんが私に気づいて「風邪引いちゃったぁ」
ってふにゃって笑う。
「眞鍋、アイス食いたい。あと薬。よろしく。」
それだけ言うと、がしゃん、とドアを閉めた。
眞鍋がドアの前に立ち尽くす。
見ればわかる。俺、これから仕事なんすけど——と、絶望した顔。疲れ切った社会人の、顔。
眞鍋が力なく私を見る。
「わ、私でよければ、買ってきます。」
眞鍋がズザァ!って頭を下げる。「すみませんありがとうございます!」