推しが隣に引っ越してきまして 〜月の裏がわ〜
マンションの前の公園。すっかり日が落ちて暗くなった。
サンダルでキラキラの笑顔で走ってくる佑月くん。片手には空の2Lのペットボトル。
「バケツなかった!これでいいかな!?」
カッターで、ペットボトルを切り始める。
ルンルンルン♪って、ニコニコしてる佑月くん。
私は、コンビニで買った花火の袋を開ける。50本入り。手持ち花火やるのなんか久しぶりで、2人だったら何本あれば足りるんだっけ、と思いながら、50本入りを買った。
花火が夏の夜に光って、消える。
「綺麗だねぇ」
佑月くんが、パチパチと散る火花を見つめる。
花火の光に照らされる佑月くんの笑顔。その顔は少年のようにキラキラしていて、純粋で、いつまでも佑月くんがそうやって笑っていれたらいいな、なんて思いながら、私も花火を見つめる。
「この3ヶ月間、楽しかったですか?」佑月くんを見る。
佑月くんが花火を見つめたまま、「うん」って答える。
それから、佑月くんが私を見る。その目があまりにも優しくて、私は慌てて目を逸らした。
蝉の鳴き声、木が風で揺れて枝がぶつかる音。夏は夜も蒸し暑くて、でも、風は少し涼しい。
佑月くんの花火が消える。この夏から光が一つ消えたみたいに、地面が暗くなる。
佑月くんが、私にキスをした。
ドォーンって遠くから、花火の音が聞こえた。