推しが隣に引っ越してきまして 〜月の裏がわ〜


土曜日12:00。




そこは、想像していたような店内ではなかった。想像していたのは、もっと豪華な——なんて言うか、キッチンがガラス張りになっていて、照明が見たことない形をしているような高級そうなお店——そんなお店行ったことないけど。
チャーシューは宇宙、は、思ったよりも普通のラーメン屋だった。いつも行くようなラーメン屋と違うことと言えば、店内が狭くて4人掛けのカウンターしかないことと、隅々まで掃除が行き届いていて、換気扇が油まみれじゃないこと、そして、メニューにラーメンが2種類しかないことだった。


塩か、醤油。どちらも税込4400円。改めて見てもすごい金額だ。


「俺は前来た時醤油にしたから塩にしよ〜っと。」
亮ちゃんがおしぼりで手を拭きながら言う。
「じゃあ私は醤油にします!」


「はーい。」亮ちゃんがメニューを閉じて、あ、注文ええですか〜、って厨房に声を掛ける。厨房には、寡黙そうな店主がひとりいるだけ。店主がこちらを向く。
「塩と醤油ひとつずつお願いします。あと餃子一皿」亮ちゃんが言うと、店主が表情ひとつ変えずに「はい。」とだけ短く言った。なんだか職人って感じだ。この人は、いろんな芸能人を見てきたんだろうか。もっとも、そんなことには全く興味が無さそうだけど。


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