推しが隣に引っ越してきまして 〜月の裏がわ〜
「宮部さんは、何で今の仕事をしてるんですか?」
「私は、」
特にこれと言って理由はない。就活をしていてたまたま受かったのがここだけだった。それだけだ。
「特にこれといってやりたいことがあったわけでもなく、ただなんとなく今の仕事に就きました。」
だから、少し眞鍋さんが羨ましい。明確にやりたいことがあって、たとえそれが叶わなくても、結果としてそれに携わって、自分の仕事に誇りを持っている、そんな人を見ると、自分はなんて中身がない人間なんだろうと思わされる。
「全部そうなんですよね、私。特に物事にこだわりがなくって。だから、自分で好きなものや夢を見つけた人とか、それに向かって努力したことがある人を私はすごく尊敬してます。」
「じゃあ俺は?」佑月くんが自分を指さす。
「?」
「たくさんいるアイドルの中から、俺を見つけてくれて、好きになってくれたでしょ。それは、凛ちゃんの、こだわりなんじゃないの?」
うむ、それはそうだけど。
「俺は、」眞鍋さんが口を開く。
「アイドルにはなれなかったけど、一番近くで5人を支えることが出来て、大好きな5人を通していろんな景色を見れるのが嬉しくて嬉しくて。
ライブ会場のペンライトとか、ファンの方の顔とか。アイドル目指して頑張ってた自分に、ありがとうって言いたい。」
真鍋さんがブフー!ってティッシュで鼻をかむ。佑月くんが眞鍋さんの頭をわしゃわしゃ撫でる。
「佑月くんのおかげで今僕はここにいれる。だから俺は、佑月くんには絶対に幸せになってほしいです。世界で一番、幸せになってほしい。」
眞鍋さんは、酔っ払うと、「佑月さん」じゃなくて「佑月くん」って呼ぶらしい。きっと昔はそう呼んでいたんだろうな。
佑月くんが真鍋さんが泣いてる様子を見てフ、って笑う。
「眞鍋、俺のこと大好きなの。」
「大好きですよ〜〜〜。」
佑月くんが、完全に酔っ払った真鍋を見てまたクク…って肩で笑う。
眞鍋さんがグラスを持ちながら、机に突っ伏す。話すだけ話して、そのまま満足して寝た。
佑月くんが、眞鍋さんの手からそっとグラスを取って離れたとこに置く。それから真鍋さんの頭をつんってつつく。
「飲みすぎなんだよ。明日多分全部覚えてないよ。」