推しが隣に引っ越してきまして 〜月の裏がわ〜
建物に入り、エレベーターでオフィスがある階まで上がる。
事務所がある階に着いて、エレベーターを降りる。前を歩く佑月くんについていく。
部屋に着いて、佑月くんが、部屋の電気を点ける。ぱっと明るくなる部屋。
「広……。」
40畳はありそう。
「ここ、事務所に泊まるときに使ってる部屋。」
隣の部屋のドアを開ける。そこは寝室で、広いベットが置いてあった。
佑月くんが鞄を放り出してソファーに寝転がる。
入り口のところで突っ立ってる私を見て笑う。
「何で固まってるの?」
「いや、私ここに来ていいのかと……。」
「大丈夫でしょ、凛ちゃんも好きにしていいよ。あ、」佑月くんが体を起こす。「冷蔵庫にプリンあるよ。食べる?」小声で悪戯っぽく言って、くしゃって笑う。眉間に皺が出来た。
この立派なオフィスには、シャワーや洗面台も完備されていて、うちより遥かに綺麗だった。東京の一等地に立つこのオフィス。金はあるところにはあるんだなぁ……と、コンビニで調達したパックを顔に貼りながら思う。
綺麗に磨かれた鏡に映る私。佑月くんから借りたパーカーを着た私。
なんで私、こんなところにいるんだろう。普通に生きていれば、絶対に見ることのなかった世界。
私と、佑月くん。交わるはずのなかった2つの世界。
私より後にシャワーを浴びた佑月くんが、頭を拭きながら洗面所に来る。
「うわっ」
咄嗟に顔を隠す。
よりによってパック中という最も可笑しい顔面を佑月くんに見られてたまるものか。
「ごめん。見ちゃダメだった?笑」
うふふ、って佑月くんが笑う。
「そのパーカー似合うね。これ、女の子が着たら可愛いと思ってたんだ〜。」
佑月くんが歯ブラシに歯磨き粉をつける。
「あ。その為に買ったんじゃないよ。」
ふふ、って笑う。
「失言、失言。」歯ブラシを咥えながら洗面所を出て行った。