愛する祖国の皆様、私のことは忘れてくださって結構です~捨てられた公爵令嬢の手記から始まる、残された者たちの末路~
断罪の時
24.毒蛇
ベルモンドが異常な発作を起こし、倒れたという報はすぐにマズロー山にまで伝わった。
気管支系の病気か毒が疑われたが、肝心のバネッサが要領を得ず、その場にいる軍医には手の施しようもなかった。
やむなくベルモンドの側近とマズロー山の将軍はリンゼット帝国への治療依頼を行った。
これほど屈辱的なことはない。倒れた国王の治療を他国に依頼するなど……しかし他に方法がない。
幸いにもリンゼット軍は多数の医者と充分な治療設備まで前線に運んでおり、ベルモンドは一命を取り止めた。
だが、彼は目を覚ますことなく最新鋭の点滴でかろうじて生きる状態に陥る。
リンゼット帝国はこれらの治療を善意で行ったが、ひとつだけ条件をつけた。
それはエスカリーナ王妃バネッサをリンゼットの軍内にとどめおくこと。
バネッサはリンゼット軍内のテントで震えていた。
「なんで、なんで私が……っ!」
生活になんら不自由はなかったが、バネッサはどうしたらいいかわからなくなっていた。
ベルモンドが今死んだら、自分の地位も吹き飛ぶだろう。
いや、それよりもリンゼットがエスカリーナへの攻撃を決意したら――ベルモンドもバネッサも終わりだ。
王都にシャンテがいる以上、今の自分は不要な存在であると認識できた。
「お願い、お願い、お願い……!!」
神など信じていなかったバネッサだが、祈らずにはいられなかった。
奇跡的に全てが丸く収まり、エスカリーナの王都へ無事に戻れるようにと。
だが、それは儚い期待であった。
ベルモンドが倒れてから数日後。
バネッサはラーゼのテントへと引きずられるようにして、連行された。
豪華絢爛な皇太子のテントへ連れて行かれたバネッサは、そこで驚愕の光景を目にする。
「あ、あなたは……あなたたちがなんで、ここにいるの!?」
ラーゼのテントにいたのは皇太子ラーゼだけではなかった。
深窓の姫君であるシャンテ、ラセター侯爵、そしてエスカリーナ各派閥の代表者たち。
そうそうたる面々がラーゼのテントに集まっていた。
居並ぶ華やかな装いの王侯貴族を前にして、バネッサは気分が悪くなった。
これではまるで自分への裁きの場のようではないか。
「ねぇ、答えなさいよ!」
「黙れ」
奥に控えたラーゼが頬杖をつきながら、一喝する。
その言葉はベルモンドとは全く違う硬質な冷たさにあふれていた。
バネッサは目の前のこの男が、一国の王であるベルモンドを躊躇なく殴りつけたというのを思い出した。
「さて、俺は忙しいのだが――シャンテ姫よ、この集まりの目的はなんだ?」
「エスカリーナ王国を代表して和平交渉を行うためです、皇太子様」
「ほう……興味深い」
ラーゼの真紅の瞳が輝いた。
「だが、そこにいる女は必要なのか」
バネッサはラーゼの指しているのが自分だと察し、身体を震わせた。
「禊のために必要です」
シャンテが腕を軽く動かすと、人の波が割れた。その波の奥から、ひとりの男が連れてこられてくる。
ターバンを巻いて後ろ手に手錠をされた、ひとりの男がバネッサの隣に並ばされた。
「……っ!!」
それはレイデフォンの外交官ラバラルであった。
バネッサの心臓が恐ろしい速度で動き始め、喉が渇いてくる。
なぜ、彼がここに連行されてきているのか。
ラーゼがゆらりと首を傾けて、バネッサに問う。
「……気分が悪いのか?」
「は、いいえ……!」
エスカリーナの近衛に両肩をおされたラバラルは、バネッサの隣に膝をつかされた。
「そこの男も知っているぞ。レイデフォンの毒蛇だ。よく捕らえたな」
「少しばかり手荒な手段を使いました」
「聞かせよ。なぜこのふたりを俺の前に引き出したかを――」
◆
二日前のこと。
ラバラルはエスカリーナのレイデフォン大使館でゆっくりとワイングラスを傾けていた。
「……ふっふふ、こうも上手く行くとはな」
「お見事な手際でございます、ラバラル次官」
応じたのはラバラルの腹心であるレイデフォンの外交官、紫髪のデューンであった。
デューンは長年ラバラルに仕えており、表も裏も大いに働く存在である。
「にしても、わずか数年で安定していたエスカリーナをかくも揺さぶるとは。驚くばかりです。本国外務省も同じ思いでしょう」
「ははは……何、難しいことはない。安定していると思っても隙はある。その隙を上手く見つけ、えぐり出せばいい」
ラバラルが得意げに語る。
(そうだ、俺が味わってきたことと同じようにすればいいだけ――)
ラバラルはレイデフォンで伯爵の位にある。
しかし、その出自は恵まれたものではなかった。妾の子ということで、子どもの頃は屋敷ではいつも肩身が狭い思いをしていた。
それだけでなく、成長するにつれてラバラルの頭脳が優れていると知るや、兄や義母から命を狙われもしたのだ。ラバラルはそうした謀略を全て切り抜け、爵位を継いだ。
ゆえにラバラルにはバネッサの心がよく見えていた。
「王妃様は不安だった。気が強く見えても心は強くない……すぐに振り回される」
「仰る通り、人にすがらないと生きていけない御方のようですな」
「陛下との仲がこじれるまで三年待ったが、その甲斐はあった……」
この三年、ラバラルは焦れる本国政府を抑えて計略を進めてきた。
その成果を収穫するまで目の前だ。
「で、あの王妃様はいかがなされるので?」
「この仕事が終わったら、俺は本国に栄転だろう。連れて行くわけにもいくまい」
ラバラルはあっさりと言い切った。
バネッサが魅力あふれることは認める。
大国レイデフォンでさえ、あれほど美しく輝くような女性はめったにいない。
しかしそれは外面だけの話だ。内面は幼く、自分の隣に置くには不安定すぎる。
ラバラルは冗談めかして腹心を見た。
「君は顔がいい。もし望むなら、バネッサの次の男になってみたらどうだ? 成り行きによってはエスカリーナで位を極められるかもしれん」
「わたくしはラバラル次官ほど出世できそうにありませんからね。それも面白そうです。で、そうなったら私はラバラル次官の命を受けて、エスカリーナを動かすと……」
下種な未来を想像し、ふたりの男はにやにやと笑う。
「エスカリーナは隣接する国も多い。しかも石炭が唸るほど出る」
ラバラルとレイデフォンがエスカリーナに干渉する理由は石炭だった。
エスカリーナを支配下に置けば、今後どれほどの富を生むか。
「王家の力が弱い現状では、開発もままならん。大国の力で導けば何もかも変わる」
「だからリンゼットも動いたのでしょうね」
「ああ、遅かったがな。この賭けは何年も前から張っていたレイデフォンの勝ちだ」
バネッサが上手く行っても行かなくても、エスカリーナは激動に揺れる。
その揺れは親レイデフォン派のエスカリーナ貴族を動かすだろう。
そこでついにレイデフォンが救世主としてエスカリーナを掌握するのだ。
「あと気になるのはシャンテ姫殿下だけでしょうか」
「未知数の奥の姫か。国王陛下より頭が切れる要注意人物なのは間違いないが、時間が足りない。王妃様も姫殿下が権力を得るのは絶対に反対されるだろう」
(本当はバネッサが衝動的にシャンテを殺してしまえば、一番楽なのだがな)
ただ、密偵によるとシャンテは警戒心がかなり強い。
人前では滅多に飲食をせず、護衛からも離れないとか。
レイデフォンのやり口をよく知っている。バネッサを操っても暗殺は無理だろう。
「まぁ、姫殿下よりも今はリンゼットだ。ここからは精密な政治力学が重要になる。力業に頼らず、政治工作を駆使して――」
ラバラルがそこまで言ってから、大使館の敷地内で大きな物音が響く。
人の叫び、何かがいくつも破壊される音。
エスカリーナで聞くことのない騒ぎだ。
「なんだ?」
「外で喧嘩ではないでしょうか? 様子を見に行きましょう」
リンゼットの圧に耐えきれなくなった市民が暴れ出したか。
だが、それにしては騒ぎが急すぎる。
デューンに頷いたラバラルはグラスを置いて、状況確認のため執務室から出た。
「なっ……!?」
ラバラルは窓の外を見て、止まった。
エスカリーナの正規兵がなんと大使館へ押し寄せてきている。
レイデフォンの大使館は金属製の柵に囲われているだが、何百人もの兵が柵を乗り越えようと押し合っていた。
「どういうことだ!?」
「ラバラル次官、逃げましょう!」
「待て! 何も持たずに逃げるのは――」
デューンがラバラルの腕を掴み、制止する。
それをラバラルが振り払おうとするが、デューンの体格のほうが大きい。
揉み合う中で、駐在武官がラバラルに走り寄る。
「次官殿! エスカリーナ兵が殺到してきます!」
「くそっ、おい! どうなっている!?」
「わ、わかりません! 次官殿を逮捕すると……エスカリーナは本気です!」
ラバラルは唖然とした。
一体、誰がそんなことを命じたのか。
大使館を守る柵が破壊され、神聖なはずの館内にエスカリーナ兵が土足で入ってくる。
大使館にいる警備や武官は数十人。対してエスカリーナの兵は数十倍であった。
時間稼ぎさえも不可能。
ラバラルは後ろ手に手錠をかけられ、大使館の外へと引きずり出された。
「貴様ら、何をしているかわかっているのか!? ここはレイデフォン王国の大使館で、私はその大使だぞ!」
「知っております」
兵を割って現れたのは、ラセター侯爵であった。
老紳士はしっかりとした足取りでラバラルに向き合う。
「そしてエスカリーナを蝕む猛毒。その陰謀もこれまでです」
気管支系の病気か毒が疑われたが、肝心のバネッサが要領を得ず、その場にいる軍医には手の施しようもなかった。
やむなくベルモンドの側近とマズロー山の将軍はリンゼット帝国への治療依頼を行った。
これほど屈辱的なことはない。倒れた国王の治療を他国に依頼するなど……しかし他に方法がない。
幸いにもリンゼット軍は多数の医者と充分な治療設備まで前線に運んでおり、ベルモンドは一命を取り止めた。
だが、彼は目を覚ますことなく最新鋭の点滴でかろうじて生きる状態に陥る。
リンゼット帝国はこれらの治療を善意で行ったが、ひとつだけ条件をつけた。
それはエスカリーナ王妃バネッサをリンゼットの軍内にとどめおくこと。
バネッサはリンゼット軍内のテントで震えていた。
「なんで、なんで私が……っ!」
生活になんら不自由はなかったが、バネッサはどうしたらいいかわからなくなっていた。
ベルモンドが今死んだら、自分の地位も吹き飛ぶだろう。
いや、それよりもリンゼットがエスカリーナへの攻撃を決意したら――ベルモンドもバネッサも終わりだ。
王都にシャンテがいる以上、今の自分は不要な存在であると認識できた。
「お願い、お願い、お願い……!!」
神など信じていなかったバネッサだが、祈らずにはいられなかった。
奇跡的に全てが丸く収まり、エスカリーナの王都へ無事に戻れるようにと。
だが、それは儚い期待であった。
ベルモンドが倒れてから数日後。
バネッサはラーゼのテントへと引きずられるようにして、連行された。
豪華絢爛な皇太子のテントへ連れて行かれたバネッサは、そこで驚愕の光景を目にする。
「あ、あなたは……あなたたちがなんで、ここにいるの!?」
ラーゼのテントにいたのは皇太子ラーゼだけではなかった。
深窓の姫君であるシャンテ、ラセター侯爵、そしてエスカリーナ各派閥の代表者たち。
そうそうたる面々がラーゼのテントに集まっていた。
居並ぶ華やかな装いの王侯貴族を前にして、バネッサは気分が悪くなった。
これではまるで自分への裁きの場のようではないか。
「ねぇ、答えなさいよ!」
「黙れ」
奥に控えたラーゼが頬杖をつきながら、一喝する。
その言葉はベルモンドとは全く違う硬質な冷たさにあふれていた。
バネッサは目の前のこの男が、一国の王であるベルモンドを躊躇なく殴りつけたというのを思い出した。
「さて、俺は忙しいのだが――シャンテ姫よ、この集まりの目的はなんだ?」
「エスカリーナ王国を代表して和平交渉を行うためです、皇太子様」
「ほう……興味深い」
ラーゼの真紅の瞳が輝いた。
「だが、そこにいる女は必要なのか」
バネッサはラーゼの指しているのが自分だと察し、身体を震わせた。
「禊のために必要です」
シャンテが腕を軽く動かすと、人の波が割れた。その波の奥から、ひとりの男が連れてこられてくる。
ターバンを巻いて後ろ手に手錠をされた、ひとりの男がバネッサの隣に並ばされた。
「……っ!!」
それはレイデフォンの外交官ラバラルであった。
バネッサの心臓が恐ろしい速度で動き始め、喉が渇いてくる。
なぜ、彼がここに連行されてきているのか。
ラーゼがゆらりと首を傾けて、バネッサに問う。
「……気分が悪いのか?」
「は、いいえ……!」
エスカリーナの近衛に両肩をおされたラバラルは、バネッサの隣に膝をつかされた。
「そこの男も知っているぞ。レイデフォンの毒蛇だ。よく捕らえたな」
「少しばかり手荒な手段を使いました」
「聞かせよ。なぜこのふたりを俺の前に引き出したかを――」
◆
二日前のこと。
ラバラルはエスカリーナのレイデフォン大使館でゆっくりとワイングラスを傾けていた。
「……ふっふふ、こうも上手く行くとはな」
「お見事な手際でございます、ラバラル次官」
応じたのはラバラルの腹心であるレイデフォンの外交官、紫髪のデューンであった。
デューンは長年ラバラルに仕えており、表も裏も大いに働く存在である。
「にしても、わずか数年で安定していたエスカリーナをかくも揺さぶるとは。驚くばかりです。本国外務省も同じ思いでしょう」
「ははは……何、難しいことはない。安定していると思っても隙はある。その隙を上手く見つけ、えぐり出せばいい」
ラバラルが得意げに語る。
(そうだ、俺が味わってきたことと同じようにすればいいだけ――)
ラバラルはレイデフォンで伯爵の位にある。
しかし、その出自は恵まれたものではなかった。妾の子ということで、子どもの頃は屋敷ではいつも肩身が狭い思いをしていた。
それだけでなく、成長するにつれてラバラルの頭脳が優れていると知るや、兄や義母から命を狙われもしたのだ。ラバラルはそうした謀略を全て切り抜け、爵位を継いだ。
ゆえにラバラルにはバネッサの心がよく見えていた。
「王妃様は不安だった。気が強く見えても心は強くない……すぐに振り回される」
「仰る通り、人にすがらないと生きていけない御方のようですな」
「陛下との仲がこじれるまで三年待ったが、その甲斐はあった……」
この三年、ラバラルは焦れる本国政府を抑えて計略を進めてきた。
その成果を収穫するまで目の前だ。
「で、あの王妃様はいかがなされるので?」
「この仕事が終わったら、俺は本国に栄転だろう。連れて行くわけにもいくまい」
ラバラルはあっさりと言い切った。
バネッサが魅力あふれることは認める。
大国レイデフォンでさえ、あれほど美しく輝くような女性はめったにいない。
しかしそれは外面だけの話だ。内面は幼く、自分の隣に置くには不安定すぎる。
ラバラルは冗談めかして腹心を見た。
「君は顔がいい。もし望むなら、バネッサの次の男になってみたらどうだ? 成り行きによってはエスカリーナで位を極められるかもしれん」
「わたくしはラバラル次官ほど出世できそうにありませんからね。それも面白そうです。で、そうなったら私はラバラル次官の命を受けて、エスカリーナを動かすと……」
下種な未来を想像し、ふたりの男はにやにやと笑う。
「エスカリーナは隣接する国も多い。しかも石炭が唸るほど出る」
ラバラルとレイデフォンがエスカリーナに干渉する理由は石炭だった。
エスカリーナを支配下に置けば、今後どれほどの富を生むか。
「王家の力が弱い現状では、開発もままならん。大国の力で導けば何もかも変わる」
「だからリンゼットも動いたのでしょうね」
「ああ、遅かったがな。この賭けは何年も前から張っていたレイデフォンの勝ちだ」
バネッサが上手く行っても行かなくても、エスカリーナは激動に揺れる。
その揺れは親レイデフォン派のエスカリーナ貴族を動かすだろう。
そこでついにレイデフォンが救世主としてエスカリーナを掌握するのだ。
「あと気になるのはシャンテ姫殿下だけでしょうか」
「未知数の奥の姫か。国王陛下より頭が切れる要注意人物なのは間違いないが、時間が足りない。王妃様も姫殿下が権力を得るのは絶対に反対されるだろう」
(本当はバネッサが衝動的にシャンテを殺してしまえば、一番楽なのだがな)
ただ、密偵によるとシャンテは警戒心がかなり強い。
人前では滅多に飲食をせず、護衛からも離れないとか。
レイデフォンのやり口をよく知っている。バネッサを操っても暗殺は無理だろう。
「まぁ、姫殿下よりも今はリンゼットだ。ここからは精密な政治力学が重要になる。力業に頼らず、政治工作を駆使して――」
ラバラルがそこまで言ってから、大使館の敷地内で大きな物音が響く。
人の叫び、何かがいくつも破壊される音。
エスカリーナで聞くことのない騒ぎだ。
「なんだ?」
「外で喧嘩ではないでしょうか? 様子を見に行きましょう」
リンゼットの圧に耐えきれなくなった市民が暴れ出したか。
だが、それにしては騒ぎが急すぎる。
デューンに頷いたラバラルはグラスを置いて、状況確認のため執務室から出た。
「なっ……!?」
ラバラルは窓の外を見て、止まった。
エスカリーナの正規兵がなんと大使館へ押し寄せてきている。
レイデフォンの大使館は金属製の柵に囲われているだが、何百人もの兵が柵を乗り越えようと押し合っていた。
「どういうことだ!?」
「ラバラル次官、逃げましょう!」
「待て! 何も持たずに逃げるのは――」
デューンがラバラルの腕を掴み、制止する。
それをラバラルが振り払おうとするが、デューンの体格のほうが大きい。
揉み合う中で、駐在武官がラバラルに走り寄る。
「次官殿! エスカリーナ兵が殺到してきます!」
「くそっ、おい! どうなっている!?」
「わ、わかりません! 次官殿を逮捕すると……エスカリーナは本気です!」
ラバラルは唖然とした。
一体、誰がそんなことを命じたのか。
大使館を守る柵が破壊され、神聖なはずの館内にエスカリーナ兵が土足で入ってくる。
大使館にいる警備や武官は数十人。対してエスカリーナの兵は数十倍であった。
時間稼ぎさえも不可能。
ラバラルは後ろ手に手錠をかけられ、大使館の外へと引きずり出された。
「貴様ら、何をしているかわかっているのか!? ここはレイデフォン王国の大使館で、私はその大使だぞ!」
「知っております」
兵を割って現れたのは、ラセター侯爵であった。
老紳士はしっかりとした足取りでラバラルに向き合う。
「そしてエスカリーナを蝕む猛毒。その陰謀もこれまでです」