完璧な社長は、私にだけ素顔を見せて溺愛する
「不安そうで、誰かに頼りたそうで」
彼の声が、普段より低く響く。
「会議室では、決して見せない顔」
ドキリとした。見抜かれている。彼は私の演技を、全部分かっているのだろうか。
「僕だけが知っているその素顔……」
彼は言葉を切り、少し躊躇うような表情を見せる。まるで、自分自身の言葉に戸惑っているような。
「……すみません、出過ぎたことを言いました」
ドアが再び閉まりかけて、彼は慌てて手を離す。
「それでは。今度はぜひ、個人的なお話を」
彼の最後の言葉を聞きながら、ドアが閉まる。
まさか、あの桐原社長があんなことを言うなんて……。
私は、閉まったエレベーターのドアを見つめる。
完璧な社長の仮面の下に隠された、一人の男性としての彼を知ってしまった今、私の心は静かに、けれど確実に動き始めていた。
お互いの「隠れた素顔」を知ってしまった私たち。
これはもしかしたら、運命の出会いの始まりなのかもしれない。
そして、あの瞬間、彼の瞳に宿っていた何か──。
それがただの好意ではなく、もっと深い感情の始まりだということに、私はまだ気づいていなかった。