完璧な社長は、私にだけ素顔を見せて溺愛する

──ドクン!

私の心臓が、一拍大きく跳ね上がる。

彼はいつものきっちりとしたスーツではなく、濃紺のカシミアセーターに黒のスラックスという、カジュアルな装いをしていた。セーターの袖から覗く腕時計が、控えめに光っている。

手には、雑誌を持っている。

こんなにリラックスした彼を見るのは初めてで、普段とは違う男性的な魅力に私の心が揺れた。

「桐原社長! うそ、こんな偶然……」

私は、思わず声を上げてしまった。手に持っていた旅行ガイドブックを、隠すように胸に抱えてしまう。

「新谷さんも、本がお好きなんですね」

彼は微笑みながら私に歩み寄ってきた。商談のときとは全く違う、温かくてリラックスした表情だ。その笑顔に、私の頬がほんのり熱くなる。

「はい、時々……。桐原社長こそ、お疲れさまです。昨夜は、本当にありがとうございました」

昨夜の徹夜作業を、最後まで見守ってくれた彼。あの時の優しさが蘇って、胸が温かくなる。

「いえ、お身体は大丈夫ですか? 無理されていませんか?」

彼の心配そうな表情に、私は思わず笑顔になった。

「大丈夫です。桐原社長がいて下さったおかげで、乗り越えられました」

私の言葉に、彼の口元がさらに緩んだ。

彼の手にあるロードバイク専門誌を見て、私は話題を振った。

「桐原社長、ロードバイクが趣味だったんですね」

彼は少し照れたような、でもどこか嬉しそうな笑顔を見せる。
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