完璧な社長は、私にだけ素顔を見せて溺愛する

「まずは、映画はいかがですか? その後、少しお話できる場所に案内したいと思います」

私たちは、渋谷の映画館へ向かった。

「梓さんは、どのような映画がお好みですか?」

圭佑さんが尋ねる。

「実は……アクション映画が好きなんです」

私は、少し恥ずかしげに答えた。婚活では、絶対に言わない趣味だった。女性らしくないと思われそうで。

「アクションですか。意外ですね」

圭佑さんが少し驚いたような顔をする。私は慌てて付け加えようとしたが、彼は続けた。

「でも、とても梓さんらしい。芯の強い梓さんだからこそ、そういう映画に魅力を感じるのかもしれませんね」

私の好みを否定するのではなく、私らしさとして受け入れてくれた。その言葉に、私の胸は温かくなった。

「梓さんのおすすめを観てみたいです」

結局、私たちは最新のアクション映画を選んだ。

映画館の暗闇の中、私は彼の存在を強く意識していた。隣に座る彼の呼吸、時々、腕が触れ合いそうになる距離感。

途中で館内が少し冷えてきた時、圭佑さんは私が寒がっているのに気づき、さりげなく自分のジャケットを私の肩にかけてくれた。

「ありがとうございます」

私が小声でお礼を言うと、彼も小声で答えた。

「梓さんが風邪をひいたら困るので」

その『梓さんが』という特別扱いに、私の心は大きく揺れた。
< 30 / 62 >

この作品をシェア

pagetop