完璧な社長は、私にだけ素顔を見せて溺愛する
彼と話しているとき、私は「婚活の顔」を作っていない。素の自分で話している。そして、彼も同じような気がした。
「仕事の僕は、作られた仮面なんです」
圭佑さんが急に真剣な表情になった。
「仮面、ですか?」
「ええ。常に完璧でなければならない。感情を表に出してはいけない。でも、本当の僕は……」
彼は私を真っ直ぐに見つめて言った。
「梓さんといるときの僕なんです」
その告白に、私の心は強く揺れた。
学生時代の恋人に言われた「息が詰まる」という言葉。あのときから私を縛り続けていた呪縛が今、静かに解けていくような感覚だった。
「私も……圭佑さんといると、初めて素の自分でいられる気がします」
私は静かに答えた。
圭佑さんは、私の手をテーブル越しにそっと握った。その温かい手の感触に、私の心が跳ね上がる。
「梓さんのその言葉、とても嬉しいです」
◇
レストランを出ると、秋の夕暮れが街を優しく染めていた。陽が少しずつ傾き始めている。
「今日は楽しかったです」
私が素直に感想を述べると、圭佑さんが嬉しそうに微笑んだ。
「僕もです。久しぶりに、心から楽しい時間を過ごせました」
私たちは、並んで駅に向かって歩き始めた……そのときだった。