完璧な社長は、私にだけ素顔を見せて溺愛する

彼と話しているとき、私は「婚活の顔」を作っていない。素の自分で話している。そして、彼も同じような気がした。

「仕事の僕は、作られた仮面なんです」

圭佑さんが急に真剣な表情になった。

「仮面、ですか?」

「ええ。常に完璧でなければならない。感情を表に出してはいけない。でも、本当の僕は……」

彼は私を真っ直ぐに見つめて言った。

「梓さんといるときの僕なんです」

その告白に、私の心は強く揺れた。

学生時代の恋人に言われた「息が詰まる」という言葉。あのときから私を縛り続けていた呪縛が今、静かに解けていくような感覚だった。

「私も……圭佑さんといると、初めて素の自分でいられる気がします」

私は静かに答えた。

圭佑さんは、私の手をテーブル越しにそっと握った。その温かい手の感触に、私の心が跳ね上がる。

「梓さんのその言葉、とても嬉しいです」



レストランを出ると、秋の夕暮れが街を優しく染めていた。陽が少しずつ傾き始めている。

「今日は楽しかったです」

私が素直に感想を述べると、圭佑さんが嬉しそうに微笑んだ。

「僕もです。久しぶりに、心から楽しい時間を過ごせました」

私たちは、並んで駅に向かって歩き始めた……そのときだった。
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