完璧な社長は、私にだけ素顔を見せて溺愛する
桐原圭佑。
新興IT企業『KIRIHARA TECH』の若手社長。先月から私たちフューチャーリンクが手がけている、彼の会社の企業プロモーション案件で、何度も会議を重ねている相手。
短く整えられた黒髪、切れ長の瞳、完璧に着こなされたダークグレーのスーツ。
メディアにも度々登場する、まさにエリート経営者の代表格のような人物が、まさかこんな場所に……。
彼の視線が私を捉えて離さない。
いつもの会議室での鋭い眼差しとは違う、どこか困惑したような、でも確実に私を認識している視線。
彼を目にした途端、心臓が一瞬、止まったような感覚を覚えた。
「お、お仕事は……IT関係の会社で、システム関連の仕事をしております」
声が少し震えてしまう。本当はプロジェクトマネージャーという肩書きを名乗りたいところだが、ここは我慢。
「趣味はひとり旅で、新しい場所で美味しいものを食べるのが大好きです。先月も熱海で、金目鯛の煮付けを堪能してきました」
会場から小さな笑い声が聞こえる。でも私の意識は、彼に釘付けになっていた。
彼は、私の自己紹介を一言も聞き逃すまいとするような集中した顔つきで見つめている。