完璧な社長は、私にだけ素顔を見せて溺愛する
「新谷さん、大丈夫? 顔色が悪いよ」
岡下さんの心配そうな声に、私はハッと我に返った。
「あ、はい。大丈夫です」
私は無理やり笑顔を作って答えたが、胸の奥で何かが音を立てて崩れ落ちるのを感じていた。
でも……待って。
プロジェクトマネージャーとして、私は常に事実確認を最優先してきた。ゴシップ記事を鵜呑みにするのは、私らしくない。
圭佑さんに直接聞くべきだ。それが正しい判断のはず。
なのに、どうして足が震えているのだろう。どうして、確かめるのが怖いのだろう。
◇
昼休み。私は一人で屋上に上がって、春菜に電話をかけた。
「春菜、聞いて……」
声が震えるのを、どうしても抑えることができない。
『梓? どうしたの、そんな声で』
「桐原さんに、婚約者がいるかもしれないの。それも、すごく美しくて上品な女性」
私は記事の内容を春菜に説明した。
『それって、本当なの? 直接本人に聞いたわけじゃないでしょ?』
「でも、写真もあるし……」
『梓、あなたらしくないよ。いつものあなたなら、ちゃんと事実確認するでしょう?』
春菜の言葉が、冷静さを取り戻させてくれた。
「そう、よね……私、仕事では絶対に確認を怠らないのに」
『もしかして怖いの? 真実を知るのが』
春菜の問いかけに、私は言葉に詰まった。
そうだ、怖いのだ。もし本当に婚約者がいて、私が単なる遊び相手だったと知るのが……。