完璧な社長は、私にだけ素顔を見せて溺愛する

「新谷さん、大丈夫? 顔色が悪いよ」

岡下さんの心配そうな声に、私はハッと我に返った。

「あ、はい。大丈夫です」

私は無理やり笑顔を作って答えたが、胸の奥で何かが音を立てて崩れ落ちるのを感じていた。

でも……待って。

プロジェクトマネージャーとして、私は常に事実確認を最優先してきた。ゴシップ記事を鵜呑みにするのは、私らしくない。

圭佑さんに直接聞くべきだ。それが正しい判断のはず。

なのに、どうして足が震えているのだろう。どうして、確かめるのが怖いのだろう。



昼休み。私は一人で屋上に上がって、春菜に電話をかけた。

「春菜、聞いて……」

声が震えるのを、どうしても抑えることができない。

『梓? どうしたの、そんな声で』

「桐原さんに、婚約者がいるかもしれないの。それも、すごく美しくて上品な女性」

私は記事の内容を春菜に説明した。

『それって、本当なの? 直接本人に聞いたわけじゃないでしょ?』

「でも、写真もあるし……」

『梓、あなたらしくないよ。いつものあなたなら、ちゃんと事実確認するでしょう?』

春菜の言葉が、冷静さを取り戻させてくれた。

「そう、よね……私、仕事では絶対に確認を怠らないのに」

『もしかして怖いの? 真実を知るのが』

春菜の問いかけに、私は言葉に詰まった。

そうだ、怖いのだ。もし本当に婚約者がいて、私が単なる遊び相手だったと知るのが……。
< 40 / 62 >

この作品をシェア

pagetop