下剋上御曹司の秘めた愛は重すぎる
この5年、多くの出会いがあったが、誰一人として心が動くことはなかった。俺の心を動かせるのは記憶の中にいる、はるちゃんだけだった。

――はるちゃんを守れるだけの力をつけて、必ず彼女を迎えに行く。俺はそう決めた。


隣に住む宝生寺の2歳年上の鞠花(まりか)には、礼儀作法やらマナーやらずいぶんと助けられたが、思いを告げられた時に、

「俺がはるちゃんを忘れることは生涯ないから期待しないで欲しい。だからもう俺のために色々としてくれなくていい」

鞠花の思いを利用するようなことはしたくない。そう伝えたが、その後も何かと世話を焼いてきた。

そしてここ1年ほどは、俺にはるちゃんを諦めさせるようなことばかり言ってくるようになった。

「当時は何も知らなかった彼女にだって、この5年の間に彼氏ができたでしょうし、伊吹くんが知らない夜を過ごしてきたはずよ。たとえ再会できたとしても、恋人がいるかもしれないし、結婚してるかもしれないわよ」

グッと息を飲んで堪えた。もし彼女が既婚者であったり、恋人がいる場合はもちろん諦めざるを得ない。一度彼女を突き放した俺が、彼女の幸せを壊すようなことはあってはならない。

この5年、彼女との再会を夢見て、それだけを支えに生きてきた。しかし、そろそろ現実との折り合いをつけなければならない。

――進むべきか、引くべきか。

それを知るために、秘書の東城に頼み込みんで『由比榛名の現状』について調査を開始した。

調査の結果、新卒で入社したE&Eトラベルで順調にキャリアを積み重ねていること、優しく思いやりに溢れた性格は健在で、周囲からの信頼も厚いこと、そして肝心の男の影は無し、見事なまでに皆無――という報告があった。

E&Eトラベルとは少ないながらも取引がある。俺は行動を開始した。
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