隠れ溺愛婚~投資ファンドの冷徹CEOは初恋の妻を守りつくす~
「その企業は創業者一族が会社を私物化していた。だから買収後に、一族には経営から退いてもらったんだが……俺に相当恨みを募らせていたようだな」

 三砂の表情から、身体の傷よりも心の傷の方が深いことが伝わる。

(慶一郎さんのことだから、一族の退陣も、深く考えた上での決断だったはず……)

 三砂の声に茉結莉は再び泣きそうな顔を上げる。

 話を聞けば、その企業は創業者が退いたことで、社内の態勢が一気に見直され、売り上げは順調に回復しているという。
 明らかに事件の動機は自分勝手で、逆恨みとしか思えないものだった。

「こんなことをしても、何の意味もないのに……」

 一歩間違えれば、三砂は命すら危なかったのだ。
 茉結莉は犯人が憎くてたまらず、行き場のない怒りをぶつけるように、拳をぎゅっと握り締めた。

「しょうがない。俺は、町工場の敵だからな」

 するとしばらくして、三砂が寂しそうに目をふせる。
 その様子に、茉結莉は勢いよく立ち上がると、大きく首を横に振った。

「そんなことありません!」

 茉結莉の凛とした声が室内に響き渡り、三砂は驚いたように顔を上げる。
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