隠れ溺愛婚~投資ファンドの冷徹CEOは初恋の妻を守りつくす~
「こんな所に座り込んでいたので、体調でも悪いのかと思って。でも安心しました」

 男性はほっとしたようにそう言うと、メタルフレームの細身の眼鏡の奥から、瞳をにっこりとほほ笑ませる。
 あまりに素敵な男性の笑顔に、茉結莉はドキッとすると恥じらうようにうつむいた。

 男性は三十代くらいだろうか。
 上質な濃紺のスーツを着こなし、長めの前髪をサイドに流す姿はモデルさながらだ。
 すると頬を染める茉結莉の顔を見た男性が、はっと小さく息を吸うのがわかった。

「え?」

 その様子に茉結莉も思わず顔を上げる。
 もう一度男性の顔を見上げた茉結莉は、驚いたように目を見開くと、時が止まったように動けなくなった。

「もしかして、森野(もりの)……さん?」

 自分で呼びかけたその名前に、茉結莉の胸はキュッと息苦しくなる感覚を覚える。
 見間違いではない。目の前でほほ笑むその人は、茉結莉の初恋の人だ。

 途端に茉結莉を、懐かしさと甘酸っぱい記憶が襲う。
 茉結莉より五歳ほど年上の森野は、第一工場の近くに母親と二人で暮らしていた。

『将来は職人になりたいんです』

 森野はそう言って、よく祖父の元に通って来ては、職人たちと過ごしていたのだ。
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