シュガーレス・マリアージュ 〜君の嘘と、甘い毒〜

第11章：嫉妬と強引なキス

偽りの婚約発表から三日。財界は東條デパートの提携と、咲の婚約のニュースで持ちきりだった。咲は、隼人との形式的な顔合わせや、高千穂家の人間との挨拶で心身ともに疲弊していた。

怜央は、咲からの愛ゆえの裏切りに、理性を失いかけていた。咲が自分を危険から遠ざけるために嘘をついたのだと、頭では理解している。しかし、愛する咲が他の男の隣で微笑む姿、隼人が公の場で咲の手を引く光景は、怜央の独占欲と焦燥を極限まで掻き立てた。

彼は、自分の計画が完成するまで待つという冷静な判断を捨て、力ずくで咲を取り戻すという、制御不能な感情に突き動かされていた。

その夜、咲はデパートの閉館後に、婚約者である隼人から呼び出されていた。提携の詳細な確認という名目だったが、隼人の目的は咲を懐柔することだった。
デパートの裏口、人通りが途絶えた場所。咲と隼人は、提携に関する書類を確認し終え、別れの挨拶を交わしていた。

「東條さん。君が東條デパートを守ろうとする覚悟は理解した。…私と結婚すれば、君の努力は報われる。安心して欲しい」
隼人はそう言いながら、咲の肩に優しく手を置いた。それは、婚約者としての当然の行為に見える。
その瞬間、暗闇から、怜央が飛び出してきた。彼は、咲の言葉を信じて待つことを放棄し、咲が隼人と会っているだろうと予測して、待ち伏せしていたのだ。
怜央の顔は、嫉妬と怒りで歪んでいた。

「その汚い手で、咲に触れるな」
怜央は隼人の手を乱暴に払い除けると、咲の腕を掴んだ。
「神崎社長、何をする！」隼人は激昂するが、怜央の放つ絶対的な威圧感に、一瞬たじろいだ。
「関係ない。俺の女だ」

怜央は咲を強引に引きずり、その場から立ち去った。隼人の「咲さん！」という叫び声が背後で聞こえるが、咲は抵抗できなかった。

怜央は、咲を自分の車に押し込むと、静かな人気のない場所へと車を走らせた。停車するやいなや、彼は咲をシートベルトの上から強く抱きしめた。
「どうしてだ、咲！どうして俺の気持ちを知ってて、あんな嘘をつく！俺を突き放すことが、そんなに楽しいか！」
彼の怒りは爆発寸前だった。咲は、彼を突き放した罪悪感と、彼の切ないほどの独占欲に、胸が苦しくなる。

「ちがう！ 私は、あなたに危険が及ばないように…」
「危険だと？ 俺が、お前なしで生きている方が、よほど危険だ！お前が俺から離れようとすること自体が、俺への最大の裏切りだ！」
怜央は、咲の唇を、乱暴に、しかし切望するように塞いだ。そのキスは、優しさなど微塵もなく、支配と独占欲に満ちていた。彼のキスは、咲の口の中に、彼の怒り、悲しみ、そして甘い毒のような愛情を、無理やり注ぎ込むようだった。

咲は最初抵抗したが、彼のキスから伝わる狂おしいほどの愛に、抵抗する力を失う。
怜央は、唇を離すと、咲の頬を両手で包み、冷たい瞳で射抜いた。
「よく聞け。お前は、高千穂の御曹司のフィアンセなんかじゃない。お前は、俺の女だ。誰にも渡さない。二度と、他の男の隣に立つな」

彼の荒い息遣いが咲の耳元にかかる。咲の心は、彼の強引な愛と、自分のついた嘘の重さの間で激しく揺れ動いた。この男は、自分が思っている以上に、咲を必要としていた。
拗れた関係は、ついに二人の理性を焼き尽くし、情熱という名の極点に達した。