シュガーレス・マリアージュ 〜君の嘘と、甘い毒〜
第13章:タイムカプセルと真実の叫び
葵からの最後通牒は、咲の心を打ち砕くと同時に、彼女の愛を決定的に覚醒させた。怜央が本当に葵を愛していようと、もう引き下がれない。自分の愛を、そして彼の本心を、確かめなければ。
咲の頭に、発見したマカロンのお守りと、幼い頃に交わした「タイムカプセル」の約束が蘇った。
(もし、怜央が私を完全に過去のものとしていたなら、あのお守りさえ失くさなかったはず。そして、あの約束を、まだ心のどこかで覚えているはずよ)
その夜遅く。咲は、デパートの裏にある、二人が幼い頃に秘密基地にしていた、古い桜の木の下へと向かった。婚約者からの電話も無視し、ドレスの上からコートを羽織っただけの姿で、スコップを手にしていた。
夜のデパートの裏は、街灯の光も届かず、暗闇に包まれている。咲は、幼い記憶を頼りに、桜の木の下の土を掘り始めた。スコップが何度も石に当たる音だけが、静寂に響く。
心臓が激しく脈打つ。もし何も出てこなければ、怜央の心には、もう二人の過去は残っていないということだ。
数十分後、スコップの先に硬いものが当たった。
「…あった」
咲は泥だらけになりながら、小さなブリキの箱を掘り出した。表面は錆びつき、当時の約束通り、箱の蓋には二人のイニシャル「S & R」がかすかに残っている。
咲は震える手で蓋を開けた。中には、色褪せた二人の写真や、交換した手紙に混じって、一枚の硬貨な紙切れが入っていた。それは、咲が書いたものではなく、怜央の筆跡だった。
咲は泥を拭いながら、月明かりの下でその紙切れを広げた。
そこに書かれていたのは、幼い頃の、しかし切ないほど真剣な言葉だった。
「咲。俺が一人前の男になって、誰にも文句を言わせない存在になったら、この箱を開ける。俺がお前を、誰よりも幸せにする。それが、俺の約束だ。――R」
咲の目から、大粒の涙がこぼれ落ちた。それは、第9章で彼が告げた「俺のものだ」という言葉の、始まりの誓いだった。彼は、あの冷たい仮面の下で、ずっとこの約束を守り続けていたのだ。葵との写真は、彼の愛を隠すための、更なる偽りの仮面に過ぎなかった。
咲がその手紙を抱きしめていると、背後から荒い足音が近づいてきた。
「…こんなところで、何をしている」
そこに立っていたのは、怜央だった。彼は、婚約発表以来、感情を押し殺したような表情をしていたが、この瞬間、その仮面は崩れ去っていた。
彼は、咲が手にしているブリキの箱と、泥まみれの咲の姿を見て、すべてを悟った。
「馬鹿なことをするな!風邪をひくだろ!」
怜央は、咲に駆け寄り、優しく抱きしめた。その抱擁は、強引だが、純粋な愛情に満ちていた。
「嘘よ、全部嘘。葵さんが言うことも、あの写真も、あなたの私に対する冷たい言葉も…もう、怖くない。私を危険から遠ざけるために、あなたが苦しんでいたことも、全部わかったから」
咲は、抱きしめられながら、涙声で続けた。
「怜央、私は東條デパートより、あなたを選ぶ。私の**檻(オリ)**は、あなたがいない世界よ!」
怜央は、咲の頬についた泥を拭い、額を合わせた。彼の瞳には、もう迷いも冷たさもない。あるのは、咲への燃えるような愛だけだった。
「…わかった。もう離さない。お前が俺を選ぶなら、俺がこのすべてを終わらせる。お前のデパートも、お前の未来も、すべて俺が守る」
二人は、愛と過去の約束によって、ついに誤解とすれ違いの檻を打ち破った。雨上がりの夜、桜の木の下で、二人の真実の愛が再燃したのだった。
咲の頭に、発見したマカロンのお守りと、幼い頃に交わした「タイムカプセル」の約束が蘇った。
(もし、怜央が私を完全に過去のものとしていたなら、あのお守りさえ失くさなかったはず。そして、あの約束を、まだ心のどこかで覚えているはずよ)
その夜遅く。咲は、デパートの裏にある、二人が幼い頃に秘密基地にしていた、古い桜の木の下へと向かった。婚約者からの電話も無視し、ドレスの上からコートを羽織っただけの姿で、スコップを手にしていた。
夜のデパートの裏は、街灯の光も届かず、暗闇に包まれている。咲は、幼い記憶を頼りに、桜の木の下の土を掘り始めた。スコップが何度も石に当たる音だけが、静寂に響く。
心臓が激しく脈打つ。もし何も出てこなければ、怜央の心には、もう二人の過去は残っていないということだ。
数十分後、スコップの先に硬いものが当たった。
「…あった」
咲は泥だらけになりながら、小さなブリキの箱を掘り出した。表面は錆びつき、当時の約束通り、箱の蓋には二人のイニシャル「S & R」がかすかに残っている。
咲は震える手で蓋を開けた。中には、色褪せた二人の写真や、交換した手紙に混じって、一枚の硬貨な紙切れが入っていた。それは、咲が書いたものではなく、怜央の筆跡だった。
咲は泥を拭いながら、月明かりの下でその紙切れを広げた。
そこに書かれていたのは、幼い頃の、しかし切ないほど真剣な言葉だった。
「咲。俺が一人前の男になって、誰にも文句を言わせない存在になったら、この箱を開ける。俺がお前を、誰よりも幸せにする。それが、俺の約束だ。――R」
咲の目から、大粒の涙がこぼれ落ちた。それは、第9章で彼が告げた「俺のものだ」という言葉の、始まりの誓いだった。彼は、あの冷たい仮面の下で、ずっとこの約束を守り続けていたのだ。葵との写真は、彼の愛を隠すための、更なる偽りの仮面に過ぎなかった。
咲がその手紙を抱きしめていると、背後から荒い足音が近づいてきた。
「…こんなところで、何をしている」
そこに立っていたのは、怜央だった。彼は、婚約発表以来、感情を押し殺したような表情をしていたが、この瞬間、その仮面は崩れ去っていた。
彼は、咲が手にしているブリキの箱と、泥まみれの咲の姿を見て、すべてを悟った。
「馬鹿なことをするな!風邪をひくだろ!」
怜央は、咲に駆け寄り、優しく抱きしめた。その抱擁は、強引だが、純粋な愛情に満ちていた。
「嘘よ、全部嘘。葵さんが言うことも、あの写真も、あなたの私に対する冷たい言葉も…もう、怖くない。私を危険から遠ざけるために、あなたが苦しんでいたことも、全部わかったから」
咲は、抱きしめられながら、涙声で続けた。
「怜央、私は東條デパートより、あなたを選ぶ。私の**檻(オリ)**は、あなたがいない世界よ!」
怜央は、咲の頬についた泥を拭い、額を合わせた。彼の瞳には、もう迷いも冷たさもない。あるのは、咲への燃えるような愛だけだった。
「…わかった。もう離さない。お前が俺を選ぶなら、俺がこのすべてを終わらせる。お前のデパートも、お前の未来も、すべて俺が守る」
二人は、愛と過去の約束によって、ついに誤解とすれ違いの檻を打ち破った。雨上がりの夜、桜の木の下で、二人の真実の愛が再燃したのだった。