電車の向こう側。【完結】
「……結城、聖……?」
未来が呟くと、彼の手が止まった。
ピアノの音が消える。
振り向いた少年の瞳が、まっすぐ未来を射抜いた。
「誰、それ。」
「え?」
「俺、そんな名前じゃないけど。」
冷たい声。
未来の胸に、冷たい針が刺さる。
「でも、あなた……ピアニストの——」
「人違いだ。」
彼は淡々と鍵盤を閉じ、立ち上がった。
未来の横をすれ違うとき、ふと彼が小さく呟いた。
「……“もうここには来るな"。」
未来は目を見開き息を呑んだ。
けれど、彼はそれ以上何も言わず、扉の向こうへと消えていった。
静かな音楽室に、夕陽が沈んでいく。
未来はただ、彼のその背中を見送ることしかできなかった。