解けない魔法を このキスで
「もしもし、株式会社 新海ホテル&リゾートの新海ですが……」
フィードバックを終えて執務室に戻ると、高良は早速美蘭の携帯に電話をかける。
すると『うわっ』と小さく悲鳴が返ってきた。
(うわっ? って、なんだ?)
眉間にしわを寄せていると、慌てたように美蘭が取り繕う。
『こ、こんにちは。わたくし、白石と申します』
「……存じております」
『えっと、新海さんは、副社長の新海さんでいらっしゃいますか?』
「……さようでございます」
『あ、お久しぶりです。ご無沙汰しております』
「……昨日ぶりですね。ご無沙汰しております」
美蘭が焦れば焦るほど、高良は冷静になっていく。
『あの、すみません。噂をすればなんとやらで、驚いてしまって……』
噂?と高良は首をひねった。
「それは、私の話をされていた、ということですか?」
するといきなりゴーッと雑音が聞こえてきた。
「もしもし? 白石さん?」
『あ、はい! すみません、海風が強くて』
「海? 今、海にいらっしゃるんですか?」
『そうです。ホットサンドを食べに来ました』
「……は?」
思わず固まると、今度は『美蘭! 誰からの電話? ねえねえ、ひょっとして例の、クールで硬派なイケメン御曹司?』と女性の声がする。
『未散ちゃん、ちょっと、聞かれちゃったらどうするのよ?』
「……聞こえてます」
『ひっ! すみません』
アワアワする美蘭にペースを乱され、なかなか本題に入れない。
「白石さん。改めまして昨日はありがとうございました」
『いえ、こちらこそ。あ! 新海さん』
「はい?」
『良かったー、お電話いただいて。連絡先が分からないから困っていたところだったんです。先日は名刺を受け取らずにお断りしてしまい、大変失礼いたしました』
「……はあ。いえ、お気になさらず」
『ひと言お詫び申し上げたくて。本当にすみませんでした。それでは、これで。失礼いたします』
「はい。……って、いやいや! ちょっと待って」
声を張って慌てて止めると、美蘭は『はい?』と不思議そうに聞き返してきた。
「こちらから電話したんだ。要件を言わせてくれ」
『あ! そうでしたね。どうかしましたか?』
高良はこめかみを指で押さえて気持ちを整えてから、ようやく本題に入る。
「週末はドレスの件で大変お世話になりました。プランナー達があなたに直接お礼を申し上げたいと。私としても、改めてあなたに感謝の気持ちをお伝えしたく、よろしければ近々当ホテルにご招待させていただけませんか? もうおひと方もご一緒に、お食事と宿泊を楽しんでいただければと」
『えっ、ご招待って、プラージュにですか? いえ、そんな。どうぞお気遣いなく。お気持ちだけで充分です』
恐縮する美蘭の後ろで『プラージュにご招待? やったー!』と声がする。
『未散ちゃん! 大きな声出さないで。聞かれちゃうでしょ?』
「……聞こえてます」
『え、やだ! もう、すみません』
「ご友人の方は喜んでくださっているようですし、白石さんもぜひ」
『でも、本当によろしいのでしょうか?』
「もちろんです。週末はお互い仕事があると思いますので、平日はいかがですか? それとも平日もお忙しいでしょうか?」
『いえ、暇を持て余しております』
暇を持て余す?と聞き返したくなるが、とにかくサラリと受け流した。
「では明後日の水曜日はいかがですか?」
『明後日ですか? えっと……』
またしても『明後日ね、オッケーでーす』とはしゃいだ声が聞こえてくる。
「ご友人は大丈夫そうですね。白石さんも?」
『あ、はい』
「良かった。それでは明後日の水曜日、お待ちしております。ご都合の良い時間にフロントまでお越しください」
『かしこまりました。よろしくお願いいたします』
ようやく話がまとまり、高良はホッとしながら電話を切った。
フィードバックを終えて執務室に戻ると、高良は早速美蘭の携帯に電話をかける。
すると『うわっ』と小さく悲鳴が返ってきた。
(うわっ? って、なんだ?)
眉間にしわを寄せていると、慌てたように美蘭が取り繕う。
『こ、こんにちは。わたくし、白石と申します』
「……存じております」
『えっと、新海さんは、副社長の新海さんでいらっしゃいますか?』
「……さようでございます」
『あ、お久しぶりです。ご無沙汰しております』
「……昨日ぶりですね。ご無沙汰しております」
美蘭が焦れば焦るほど、高良は冷静になっていく。
『あの、すみません。噂をすればなんとやらで、驚いてしまって……』
噂?と高良は首をひねった。
「それは、私の話をされていた、ということですか?」
するといきなりゴーッと雑音が聞こえてきた。
「もしもし? 白石さん?」
『あ、はい! すみません、海風が強くて』
「海? 今、海にいらっしゃるんですか?」
『そうです。ホットサンドを食べに来ました』
「……は?」
思わず固まると、今度は『美蘭! 誰からの電話? ねえねえ、ひょっとして例の、クールで硬派なイケメン御曹司?』と女性の声がする。
『未散ちゃん、ちょっと、聞かれちゃったらどうするのよ?』
「……聞こえてます」
『ひっ! すみません』
アワアワする美蘭にペースを乱され、なかなか本題に入れない。
「白石さん。改めまして昨日はありがとうございました」
『いえ、こちらこそ。あ! 新海さん』
「はい?」
『良かったー、お電話いただいて。連絡先が分からないから困っていたところだったんです。先日は名刺を受け取らずにお断りしてしまい、大変失礼いたしました』
「……はあ。いえ、お気になさらず」
『ひと言お詫び申し上げたくて。本当にすみませんでした。それでは、これで。失礼いたします』
「はい。……って、いやいや! ちょっと待って」
声を張って慌てて止めると、美蘭は『はい?』と不思議そうに聞き返してきた。
「こちらから電話したんだ。要件を言わせてくれ」
『あ! そうでしたね。どうかしましたか?』
高良はこめかみを指で押さえて気持ちを整えてから、ようやく本題に入る。
「週末はドレスの件で大変お世話になりました。プランナー達があなたに直接お礼を申し上げたいと。私としても、改めてあなたに感謝の気持ちをお伝えしたく、よろしければ近々当ホテルにご招待させていただけませんか? もうおひと方もご一緒に、お食事と宿泊を楽しんでいただければと」
『えっ、ご招待って、プラージュにですか? いえ、そんな。どうぞお気遣いなく。お気持ちだけで充分です』
恐縮する美蘭の後ろで『プラージュにご招待? やったー!』と声がする。
『未散ちゃん! 大きな声出さないで。聞かれちゃうでしょ?』
「……聞こえてます」
『え、やだ! もう、すみません』
「ご友人の方は喜んでくださっているようですし、白石さんもぜひ」
『でも、本当によろしいのでしょうか?』
「もちろんです。週末はお互い仕事があると思いますので、平日はいかがですか? それとも平日もお忙しいでしょうか?」
『いえ、暇を持て余しております』
暇を持て余す?と聞き返したくなるが、とにかくサラリと受け流した。
「では明後日の水曜日はいかがですか?」
『明後日ですか? えっと……』
またしても『明後日ね、オッケーでーす』とはしゃいだ声が聞こえてくる。
「ご友人は大丈夫そうですね。白石さんも?」
『あ、はい』
「良かった。それでは明後日の水曜日、お待ちしております。ご都合の良い時間にフロントまでお越しください」
『かしこまりました。よろしくお願いいたします』
ようやく話がまとまり、高良はホッとしながら電話を切った。