解けない魔法を このキスで
「美蘭ー、おはよう!」
「おはよう。わっ、未散ちゃん、気合入ってるね」
迎えた水曜日。
朝10時に『プラージュ横浜』のロビーで待ち合わせると、未散はロングワンピースにブーツ、栗色のジャケットに、つばの広いエレガントな帽子までかぶって現れた。
「さあて、遊ぶわよー。フロントに荷物預けたら、まずはプールね」
「はいはい」
颯爽と歩き始めた未散に続いてフロントに行くと「白石様ですね、お待ちしておりました。早速お部屋にご案内いたします」とにこやかに言われる。
「え? もうお部屋に入れるんですか?」
「はい。お荷物もお運びします」
いつの間にかすぐそばに来ていたベルマンが、二人のキャリーバッグをさり気なく受け取った。
「ご案内いたします。どうぞこちらへ」
「あ、はい」
優雅な身のこなしのベルマンに続いて、ロビーを横切る。
改めて見ると、きらびやかなシャンデリアやふかふかの絨毯、ソファも高級で、洗練された雰囲気のラグジュアリーな空間だった。
(いつもは仕事で来るからササッと通り過ぎてしまうけど、今日はじっくりお客様目線でホテルを楽しもう)
そう思いながらエレベーターに乗り、案内された部屋は、なんとスイートルームだった。
「えっ!」
足を踏み入れた途端、美蘭と未散は固まって目を見開く。
「こ、こんなお部屋を? 私達が?」
「はい。お二人には日頃から大変お世話になっているので、丁重におもてなしするようにと副社長から直々に仰せつかっております。早速ですが、ウェルカムシャンパンとフルーツをどうぞ。お食事はルームサービス、もしくはレストランなどのご希望はございますか?」
「いえ、あの、なにも。頭がまったく働かなくて……」
「かしこまりました。お決まりになりましたら、いつでも内線電話でお知らせください。まずはどうぞごゆっくり。それではわたくしは、一旦ここで失礼いたします」
「あ、はい。ありがとうございました」
パタンとドアが閉まり、静けさが広がる。
ゆっくり顔を見合わせたあと、二人で「きゃー!」と盛り上がった。
「スイートルームだって! すごーい」
「ほんと! 初めてだよ。広いねえ」
「奥の部屋も見て回ろうよ」
「うん。わあー、ゴージャス! セレブのお住まいだね」
「もう大感激! 人生初のスイートルーム! 彼氏じゃなくて美蘭と一緒っていうがネックだけど、許す」
「あはは! こちらこそだよー」
しばらくは二人で、ベッドに寝転んだり、バスルームやパウダールームを覗いてはしゃぐ。
「美蘭、予定変更! 横浜の街に繰り出すのはいつでも出来る。今回はこのスイートルームを満喫するぞー!」
「うん! 予定変更、バンザーイ!」
その時、ピンポンとチャイムの音がして二人は真顔に戻った。
「なに、うるさいって苦情?」
「えー、ご近所迷惑だった?」
恐る恐る二人でドアに向かう。
カチャッと小さくドアを開けると、スーツ姿の高良が立っていた。
「新海さん!」
ホッとして美蘭は大きくドアを開ける。
「ようこそ『プラージュ横浜』へ。チェックインされたとうかがって、ご挨拶に参りました」
「あ、はい。どうぞ」
美蘭が部屋の中に招き入れると、高良は改めて二人に名刺を差し出した。
「株式会社 新海ホテル&リゾートの新海高良と申します。いつも大変お世話になっております」
「こちらこそ。ソルシエール代表の、白石美蘭と申します」
今度こそきちんと名刺を交換する。
「はじめまして。ソルシエールの常磐未散と申します」
「常磐さんですね。はじめまして、新海と申します」
未散は緊張の面持ちで高良の名刺を受け取った。
「あの、新海さん。こんな豪華なお部屋を使わせていただくなんて、本当によろしいのでしょうか?」
美蘭が一番気になっていたことを聞いてみる。
「もちろんです。どうぞごゆっくりおくつろぎください。エステやネイル、ビューティーサロン、スパやプール、それからレストランやバーなども、このお部屋のカードキーをご提示いただければ全てフリーでご利用いただけます。ご予約をお取りしましょうか?」
「え、いえ、あの、大丈夫です」
話が大きすぎて頭がついていかない。
「僭越ながら、18時からはお時間をいただけないでしょうか? フレンチレストランで会食をさせていただきたく」
「はい、それはもちろん」
「ありがとうございます。では18時にこちらにお迎えに上がりますので」
「分かりました。よろしくお願いいたします」
最後にうやうやしくお辞儀をして、高良は退室していった。
「おはよう。わっ、未散ちゃん、気合入ってるね」
迎えた水曜日。
朝10時に『プラージュ横浜』のロビーで待ち合わせると、未散はロングワンピースにブーツ、栗色のジャケットに、つばの広いエレガントな帽子までかぶって現れた。
「さあて、遊ぶわよー。フロントに荷物預けたら、まずはプールね」
「はいはい」
颯爽と歩き始めた未散に続いてフロントに行くと「白石様ですね、お待ちしておりました。早速お部屋にご案内いたします」とにこやかに言われる。
「え? もうお部屋に入れるんですか?」
「はい。お荷物もお運びします」
いつの間にかすぐそばに来ていたベルマンが、二人のキャリーバッグをさり気なく受け取った。
「ご案内いたします。どうぞこちらへ」
「あ、はい」
優雅な身のこなしのベルマンに続いて、ロビーを横切る。
改めて見ると、きらびやかなシャンデリアやふかふかの絨毯、ソファも高級で、洗練された雰囲気のラグジュアリーな空間だった。
(いつもは仕事で来るからササッと通り過ぎてしまうけど、今日はじっくりお客様目線でホテルを楽しもう)
そう思いながらエレベーターに乗り、案内された部屋は、なんとスイートルームだった。
「えっ!」
足を踏み入れた途端、美蘭と未散は固まって目を見開く。
「こ、こんなお部屋を? 私達が?」
「はい。お二人には日頃から大変お世話になっているので、丁重におもてなしするようにと副社長から直々に仰せつかっております。早速ですが、ウェルカムシャンパンとフルーツをどうぞ。お食事はルームサービス、もしくはレストランなどのご希望はございますか?」
「いえ、あの、なにも。頭がまったく働かなくて……」
「かしこまりました。お決まりになりましたら、いつでも内線電話でお知らせください。まずはどうぞごゆっくり。それではわたくしは、一旦ここで失礼いたします」
「あ、はい。ありがとうございました」
パタンとドアが閉まり、静けさが広がる。
ゆっくり顔を見合わせたあと、二人で「きゃー!」と盛り上がった。
「スイートルームだって! すごーい」
「ほんと! 初めてだよ。広いねえ」
「奥の部屋も見て回ろうよ」
「うん。わあー、ゴージャス! セレブのお住まいだね」
「もう大感激! 人生初のスイートルーム! 彼氏じゃなくて美蘭と一緒っていうがネックだけど、許す」
「あはは! こちらこそだよー」
しばらくは二人で、ベッドに寝転んだり、バスルームやパウダールームを覗いてはしゃぐ。
「美蘭、予定変更! 横浜の街に繰り出すのはいつでも出来る。今回はこのスイートルームを満喫するぞー!」
「うん! 予定変更、バンザーイ!」
その時、ピンポンとチャイムの音がして二人は真顔に戻った。
「なに、うるさいって苦情?」
「えー、ご近所迷惑だった?」
恐る恐る二人でドアに向かう。
カチャッと小さくドアを開けると、スーツ姿の高良が立っていた。
「新海さん!」
ホッとして美蘭は大きくドアを開ける。
「ようこそ『プラージュ横浜』へ。チェックインされたとうかがって、ご挨拶に参りました」
「あ、はい。どうぞ」
美蘭が部屋の中に招き入れると、高良は改めて二人に名刺を差し出した。
「株式会社 新海ホテル&リゾートの新海高良と申します。いつも大変お世話になっております」
「こちらこそ。ソルシエール代表の、白石美蘭と申します」
今度こそきちんと名刺を交換する。
「はじめまして。ソルシエールの常磐未散と申します」
「常磐さんですね。はじめまして、新海と申します」
未散は緊張の面持ちで高良の名刺を受け取った。
「あの、新海さん。こんな豪華なお部屋を使わせていただくなんて、本当によろしいのでしょうか?」
美蘭が一番気になっていたことを聞いてみる。
「もちろんです。どうぞごゆっくりおくつろぎください。エステやネイル、ビューティーサロン、スパやプール、それからレストランやバーなども、このお部屋のカードキーをご提示いただければ全てフリーでご利用いただけます。ご予約をお取りしましょうか?」
「え、いえ、あの、大丈夫です」
話が大きすぎて頭がついていかない。
「僭越ながら、18時からはお時間をいただけないでしょうか? フレンチレストランで会食をさせていただきたく」
「はい、それはもちろん」
「ありがとうございます。では18時にこちらにお迎えに上がりますので」
「分かりました。よろしくお願いいたします」
最後にうやうやしくお辞儀をして、高良は退室していった。