解けない魔法を このキスで
年末年始は実家に帰ってのんびりと過ごし、1月5日から美蘭はまた葉山に戻った。
「美蘭! 明けましておめでとう」
10時頃に久しぶりに未散がやって来た。
「明けましておめでとう、未散ちゃん。今年もどうぞよろしくね」
「こちらこそ。実家ではのんびり出来た?」
「うん。3キロ太った」
「ちょっと、どんだけー?」
あはは!と二人で明るく笑い合う。
今年もこうやって楽しく仕事が出来ますようにと、美蘭は心の中で願った。
「えっと、取り敢えずスケジュール確認から始めようか。締め切りと納期と、あと打ち合わせの予定」
「うん、そうだね」
コーヒーを飲みながら、二人でドレスの依頼と照らし合わせつつ作業工程を確認していく。
「今月は挙式のスケジュールに余裕があるから、前倒しでドレスの製作を進めておこう。バレンタイン辺りからは忙しくなって、怒涛の春のブライダルシーズンに突入よ。3月から6月までは、毎週末フルールでもプラージュでも挙式が入ってる。二人ともフル稼働ね」
改めて言われると身構えてしまう。
美蘭はゴクリと喉を鳴らした。
「なんか、すっごいね」
「まあね。でも去年だって同じだったよ。こうやって前もって見ると、ひえーって思うけど、振り返ってみればそんなもんかって感じじゃない?」
「未散ちゃんってば、なんて頼もしい」
「そう? まあ、美蘭がもう少し上手く手の抜き方を覚えたらもっと余裕が出てくると思うけど、それが出来ないのが美蘭だもんね」
「うん、ごめん」
「いいよ。だからこそソルシエールのドレスは信頼されてるんだから。だけど美蘭、くれぐれも自分の身体を労わってね。ある日いきなり限界超えて倒れたりしないように」
真剣に言われて美蘭は頷く。
「そうだね。倒れたら元も子もないもん。気をつけるね」
「あと、息抜きも大切にね。今年こそ彼氏作って、デートを楽しめるといいね」
「うぐっ、それは無理かと……」
「諦めるんじゃなーい! 今年の美蘭のテーマは『いつか王子様が』By.シンデレラ」
「あはは! なによそれ」
笑ってからふと真顔になる。
「未散ちゃん、それってシンデレラじゃなくて『白雪姫』じゃない?」
「そうだっけ? まあなんでもいいよ。とにかく美蘭、今年は『彼氏作ろうキャンペーン』を掲げよう」
「まったくもう、また妙なこと言うんだから」
そしてふと気になった。
「白雪姫のテーマソングが『いつか王子様が』だよね。シンデレラのテーマソングって、なんだっけ?」
「あれじゃない? ビビディ・バビディ・ブー!」
そう言うと未散は口ずさみながら作業台に向かった。
(えー、違うでしょ。あれはメインテーマじゃなくて、魔法使いのおばあさんの呪文だよ)
残されたテーブルで、美蘭はシンデレラのテーマソングを検索する。
(これだ! 『夢はひそかに』)
原題の『A dream is a wish your heart makes』の歌詞に目を通してみた。
(夢は心が作り出す願い、か。どんなに辛くても信じ続けていれば、いつかきっと夢は叶う……。素敵な言葉)
私の夢は?
たくさんの女の子達の夢を叶えること。
運命の人と永遠の愛を誓い合う日に、シンデレラの魔法使いのように、自分が作ったドレスで女の子をプリンセスにする。
幸せそうな笑顔を見ることが、美蘭にとっての喜びだった。
それはこれまでも、そしてこれからも変わらない。
でも……、と美蘭はクリスマスパーティーでのことを思い出した。
優しい微笑みを浮かべた高良と、手を取り合って踊ったあの時間は、まるで夢のようなひとときだった。
(あれは神様からのクリスマスプレゼントだったのかな。あ、クリスマスだからサンタさんか。あはは!)
美蘭は、自分の中の本当の夢に目を向けないまま、考え事をやめて立ち上がった。
「美蘭! 明けましておめでとう」
10時頃に久しぶりに未散がやって来た。
「明けましておめでとう、未散ちゃん。今年もどうぞよろしくね」
「こちらこそ。実家ではのんびり出来た?」
「うん。3キロ太った」
「ちょっと、どんだけー?」
あはは!と二人で明るく笑い合う。
今年もこうやって楽しく仕事が出来ますようにと、美蘭は心の中で願った。
「えっと、取り敢えずスケジュール確認から始めようか。締め切りと納期と、あと打ち合わせの予定」
「うん、そうだね」
コーヒーを飲みながら、二人でドレスの依頼と照らし合わせつつ作業工程を確認していく。
「今月は挙式のスケジュールに余裕があるから、前倒しでドレスの製作を進めておこう。バレンタイン辺りからは忙しくなって、怒涛の春のブライダルシーズンに突入よ。3月から6月までは、毎週末フルールでもプラージュでも挙式が入ってる。二人ともフル稼働ね」
改めて言われると身構えてしまう。
美蘭はゴクリと喉を鳴らした。
「なんか、すっごいね」
「まあね。でも去年だって同じだったよ。こうやって前もって見ると、ひえーって思うけど、振り返ってみればそんなもんかって感じじゃない?」
「未散ちゃんってば、なんて頼もしい」
「そう? まあ、美蘭がもう少し上手く手の抜き方を覚えたらもっと余裕が出てくると思うけど、それが出来ないのが美蘭だもんね」
「うん、ごめん」
「いいよ。だからこそソルシエールのドレスは信頼されてるんだから。だけど美蘭、くれぐれも自分の身体を労わってね。ある日いきなり限界超えて倒れたりしないように」
真剣に言われて美蘭は頷く。
「そうだね。倒れたら元も子もないもん。気をつけるね」
「あと、息抜きも大切にね。今年こそ彼氏作って、デートを楽しめるといいね」
「うぐっ、それは無理かと……」
「諦めるんじゃなーい! 今年の美蘭のテーマは『いつか王子様が』By.シンデレラ」
「あはは! なによそれ」
笑ってからふと真顔になる。
「未散ちゃん、それってシンデレラじゃなくて『白雪姫』じゃない?」
「そうだっけ? まあなんでもいいよ。とにかく美蘭、今年は『彼氏作ろうキャンペーン』を掲げよう」
「まったくもう、また妙なこと言うんだから」
そしてふと気になった。
「白雪姫のテーマソングが『いつか王子様が』だよね。シンデレラのテーマソングって、なんだっけ?」
「あれじゃない? ビビディ・バビディ・ブー!」
そう言うと未散は口ずさみながら作業台に向かった。
(えー、違うでしょ。あれはメインテーマじゃなくて、魔法使いのおばあさんの呪文だよ)
残されたテーブルで、美蘭はシンデレラのテーマソングを検索する。
(これだ! 『夢はひそかに』)
原題の『A dream is a wish your heart makes』の歌詞に目を通してみた。
(夢は心が作り出す願い、か。どんなに辛くても信じ続けていれば、いつかきっと夢は叶う……。素敵な言葉)
私の夢は?
たくさんの女の子達の夢を叶えること。
運命の人と永遠の愛を誓い合う日に、シンデレラの魔法使いのように、自分が作ったドレスで女の子をプリンセスにする。
幸せそうな笑顔を見ることが、美蘭にとっての喜びだった。
それはこれまでも、そしてこれからも変わらない。
でも……、と美蘭はクリスマスパーティーでのことを思い出した。
優しい微笑みを浮かべた高良と、手を取り合って踊ったあの時間は、まるで夢のようなひとときだった。
(あれは神様からのクリスマスプレゼントだったのかな。あ、クリスマスだからサンタさんか。あはは!)
美蘭は、自分の中の本当の夢に目を向けないまま、考え事をやめて立ち上がった。