解けない魔法を このキスで
突然現れたライバル
一方、年末年始も日本各地のホテルを訪れて忙しく仕事をこなした高良は、1月下旬にようやく人心地ついていた。
思い浮かべるのは、美蘭のこと。
クリスマスパーティーで思わぬ形で別れてから、なにも連絡をしていなかった。

(そろそろ声をかけてみよう。いや、あわよくば会いたい)

そう思い、いい機会はないかと考える。
こういう時に限って、『フルール葉山』での仕事やトラブルもなかった。

(新年のご挨拶に伺う、とか?)

その時、ふいにデスクの電話が鳴る。
出てみると、東京本社にいる秘書からの電話だった。

春日(かすが)ブライダルの副社長秘書の方からお電話がありました。春日友典(とものり)副社長が、高良副社長と直々にお会いになりたいそうです』

突拍子もない話に思えて、高良は眉をひそめる。

「春日ブライダルの副社長が、私に?」

春日ブライダルは、海外挙式にも力を入れているブライダル業界の最大手だ。
ハワイやグアムなどのリゾートウェディングはもちろん、イタリアやフランスなど、ヨーロッパの古城や大聖堂でも結婚式を挙げられることで有名だ。

その副社長が、なぜホテル業界の自分に?と、高良は戸惑いを隠せない。

「どういう意図で?」
『それが、ドレスブランドのソルシエールに関することでご報告があると』

ドクンと高良の心臓が音を立てた。

「ソルシエールのことで、報告?」

ソルシエールという名前を出されただけでも驚いたが、報告とはどういうことだと、ますます顔をしかめる。
このまま聞き流す訳にはいかなかった。

「分かった、お会いすると伝えてくれ」
『かしこまりました。それが既に具体的なことも提示されておりまして。ちょうど今、横浜に仕事で来ているから、プラージュでお食事でもいかがですか、とのことです』
「なに、今から? そんなに急にアポを取ろうとしているのか?」
『ええ。私も困惑いたしましたが、ぜひ副社長に伝えていただきたいとおっしゃって』

高良は受話器を持つ手に力を込めた。
ソルシエールの、引いては美蘭のことで報告があると言われては黙っていられない。
しかも相手は強気なのか、かなり強引だ。
それなら受けて立たねば。

「分かった、先方の都合に合わせる。私の本日のスケジュールをリスケしてくれるか?」
『かしこまりました。すぐに先方と時間を相談しまして、後ほどご連絡いたします』
「頼む」

電話を切ると、大きく息を吐いて椅子に背を預けた。

(一体、どんな報告だというのか)

いずれにしろ、ここは相手に主導権を握らせてはいけない。
そんな気がして、高良はグッと拳を握りしめた。
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