解けない魔法を このキスで
突然の告白
「美蘭ー、おはよう」
「おはよう、未散ちゃん」
いつもの平日がやってきた。
アトリエでコーヒーを飲みながら、未散と二人で週末の挙式を振り返る。
「どうだった? プラージュの方は」
「うん、滞りなく。昨日の夕方の挙式はフルールに戻ってきたけど、そこでも特に問題なかったよ」
「そっか。ごめんね、ミラノから帰ってきたばっかりなのに、ハードスケジュールになっちゃって」
「大丈夫だよ。それより未散ちゃん、大事な用事には間に合った?」
未散は土曜と日曜ともに『フルール葉山』のすべての挙式に立ち会う予定だったが、どうしても日曜の夜に外せない予定が入り、美蘭が『プラージュ横浜』での挙式が終わり次第、葉山に駆けつけることになったのだった。
「うん、お陰様で。それでね、美蘭。実はお知らせがあって」
「なあに? 改まって」
珍しく言葉を選ぶように躊躇している未散に、美蘭は嫌な予感がした。
「もしかして、未散ちゃん! ソルシエールを辞めるなんて言わないよね?」
すると未散は顔を上げて笑い飛ばす。
「まっさか。言わない言わない。美蘭に負けず劣らず、私もドレス作りは天職だと思ってるもん」
「良かったあ……。じゃあ、お知らせって?」
「うん、あのね。私、結婚することにしたの」
えー!と美蘭は声を上げた。
「おめでとう! 良かったね、未散ちゃん。なーんだ、神妙な顔つきだから身構えちゃったけど、おめでたいお話じゃない。じゃあ昨日の大事な用事って、もしかして?」
「彼のご両親にご挨拶してきたの。家柄のちゃんとした家系だから心配だったんだけど、無事にお許しもらえてホッとした」
「そっかあ。あー、なんだか私まで嬉しい。結婚式は? ドレスは自分で作る?」
「うん。でも美蘭にも手伝ってもらいたくて」
「もちろんだよ。未散ちゃんのウェディングドレスを考える日が来るなんて。もう既にわくわくしちゃう。いつプロポーズされてたの? ちっとも知らなかった」
そこまで言うと、美蘭はふと、うつむいたままの未散の顔を覗き込む。
「未散ちゃん、どうかした? なにか心配なことでもあるの?」
「違うの。プロポーズは去年のクリスマスにされてたんだけど、美蘭は変わらず独り身だから、その、ちょっと言い出しづらくて……」
なんだ、そんなこと!と、美蘭はまたしても明るく笑った、
「気にしなくていいのに。私、彼氏がほしいとか思ってた訳じゃ……」
そう言いながら美蘭は真顔に戻る。
(あ、私って彼氏が出来たのかな)
土曜日の高良とのことを思い返した。
あのあと、高良はしばらく美蘭を抱きしめてから、翌日の仕事に備えて美蘭をペントハウスの寝室に案内した。
以前と同じ部屋でゆっくり眠り、朝になるとリビングに下りて二人で朝食を食べ、スタッフの制服を借りてサロンに向かった。
そこからはいつも通り仕事をして、午後の挙式が終わると急いで葉山に戻って来た為、高良に挨拶も出来なかった。
そして夜も特に連絡はないまま、今こうして朝を迎えている。
(よく考えたら、なんだろうこの関係。好きだとは言われて、その、キスもした、けど。それだけだもんね。おつき合いを始めましょうとか、今日から君は俺の彼女だ、とか言われた訳じゃないし)
悶々と考えていると、未散が控えめに声をかけてきた。
「あの、美蘭。ごめんね。だけど黙ってるのも違うと思ったから」
「え? あっ、ううん。別の考え事をしてただけ。未散ちゃんの結婚は、私もすごく嬉しいよ」
「ありがとう。でもこの話はもうおしまいね。さてと、スケジュールの確認しようか」
そう言ってタブレットを操作し始めた未散に、美蘭は高良とのあいまいな関係を報告しそこなってしまった。
「おはよう、未散ちゃん」
いつもの平日がやってきた。
アトリエでコーヒーを飲みながら、未散と二人で週末の挙式を振り返る。
「どうだった? プラージュの方は」
「うん、滞りなく。昨日の夕方の挙式はフルールに戻ってきたけど、そこでも特に問題なかったよ」
「そっか。ごめんね、ミラノから帰ってきたばっかりなのに、ハードスケジュールになっちゃって」
「大丈夫だよ。それより未散ちゃん、大事な用事には間に合った?」
未散は土曜と日曜ともに『フルール葉山』のすべての挙式に立ち会う予定だったが、どうしても日曜の夜に外せない予定が入り、美蘭が『プラージュ横浜』での挙式が終わり次第、葉山に駆けつけることになったのだった。
「うん、お陰様で。それでね、美蘭。実はお知らせがあって」
「なあに? 改まって」
珍しく言葉を選ぶように躊躇している未散に、美蘭は嫌な予感がした。
「もしかして、未散ちゃん! ソルシエールを辞めるなんて言わないよね?」
すると未散は顔を上げて笑い飛ばす。
「まっさか。言わない言わない。美蘭に負けず劣らず、私もドレス作りは天職だと思ってるもん」
「良かったあ……。じゃあ、お知らせって?」
「うん、あのね。私、結婚することにしたの」
えー!と美蘭は声を上げた。
「おめでとう! 良かったね、未散ちゃん。なーんだ、神妙な顔つきだから身構えちゃったけど、おめでたいお話じゃない。じゃあ昨日の大事な用事って、もしかして?」
「彼のご両親にご挨拶してきたの。家柄のちゃんとした家系だから心配だったんだけど、無事にお許しもらえてホッとした」
「そっかあ。あー、なんだか私まで嬉しい。結婚式は? ドレスは自分で作る?」
「うん。でも美蘭にも手伝ってもらいたくて」
「もちろんだよ。未散ちゃんのウェディングドレスを考える日が来るなんて。もう既にわくわくしちゃう。いつプロポーズされてたの? ちっとも知らなかった」
そこまで言うと、美蘭はふと、うつむいたままの未散の顔を覗き込む。
「未散ちゃん、どうかした? なにか心配なことでもあるの?」
「違うの。プロポーズは去年のクリスマスにされてたんだけど、美蘭は変わらず独り身だから、その、ちょっと言い出しづらくて……」
なんだ、そんなこと!と、美蘭はまたしても明るく笑った、
「気にしなくていいのに。私、彼氏がほしいとか思ってた訳じゃ……」
そう言いながら美蘭は真顔に戻る。
(あ、私って彼氏が出来たのかな)
土曜日の高良とのことを思い返した。
あのあと、高良はしばらく美蘭を抱きしめてから、翌日の仕事に備えて美蘭をペントハウスの寝室に案内した。
以前と同じ部屋でゆっくり眠り、朝になるとリビングに下りて二人で朝食を食べ、スタッフの制服を借りてサロンに向かった。
そこからはいつも通り仕事をして、午後の挙式が終わると急いで葉山に戻って来た為、高良に挨拶も出来なかった。
そして夜も特に連絡はないまま、今こうして朝を迎えている。
(よく考えたら、なんだろうこの関係。好きだとは言われて、その、キスもした、けど。それだけだもんね。おつき合いを始めましょうとか、今日から君は俺の彼女だ、とか言われた訳じゃないし)
悶々と考えていると、未散が控えめに声をかけてきた。
「あの、美蘭。ごめんね。だけど黙ってるのも違うと思ったから」
「え? あっ、ううん。別の考え事をしてただけ。未散ちゃんの結婚は、私もすごく嬉しいよ」
「ありがとう。でもこの話はもうおしまいね。さてと、スケジュールの確認しようか」
そう言ってタブレットを操作し始めた未散に、美蘭は高良とのあいまいな関係を報告しそこなってしまった。