解けない魔法を このキスで
「新海さん!」

アパートの前の道路に停まっている白いセダンの横に、スラリとした立ち姿の高良がいるのが見えて、美蘭はタタッと駆け寄った。

「こんばんは」
「こんばんは。ごめん、急がせたな」

そう言うと高良は、美蘭の顔にかかった髪をサラリと後ろになでる。

「早く会いたくて高速道路を使ったら、あっという間に着いてしまった。ゆっくり支度出来なかったか?」
「あ、ごめんなさい。髪も下ろしっぱなしで」
「いや、新鮮だなと思って。可愛いな」

ふっと微笑みかけられ、美蘭は真っ赤になる。
思わずうつむいていると、高良はさり気なく美蘭の手からバッグを受け取って助手席のドアを開けた。

「どうぞ、乗って」
「はい」

高級そうな革張りのシートに腰を下ろすと、運転席に乗り込んだ高良がシートベルトを締めながら尋ねる。

「いつもうちのホテルで食事していたから、たまには外で食べないか?」
「はい。どこに行くの?」
「ん? 決めてないけど、海が見えるところがいいな。美蘭はこの辺り詳しい?」
「それが全然。アトリエとフルールとお散歩コースの海の、三角地帯しか」
「ははは! 地元の人って案外そんなもんだよな。じゃあマリーナに行ってみるか。確か良さそうなレストランがあるはずだ」
「そうですね」

ゆっくりと走り出した車内で、美蘭は緊張の余り身を硬くする。
高良の運転も静かで、密室に二人きりなのを意識してしまい、なにを話していいのか分からない。

するとカーオーディオからかすかにサクソフォンの音色が聴こえてきた。
あっ……と思わず呟くと、高良が「ん? この曲?』と言ってボリュームを上げる。

「ジャズでよく聴くナンバーだな。『A Dream Is A Wish Your Heart Makes』」
「この曲、シンデレラのテーマソングです」
「ああ、そうだったな」

ゆったりと奏でられるサクソフォンの音色に、二人で耳を傾けた。
ジャズのアレンジは大人の雰囲気で、切なさと甘いメロディにうっとりと聴き惚れる。

「改めてじっくり聴くといい曲だな」
「ええ。夢は心が作り出す願い。私の夢も、まさにそうです。女の子達をプリンセスにしたい。それがいつしか私の夢になりました」
「そして君は自分の力で夢を叶えた。それなら、次の夢は?」
「次の、夢?」

どういう意味だろうと思っていると、車が速度を落として広い駐車場に停まった。

「着いたよ」

言われて美蘭は窓の外を見る。
そこには、まるで海に浮かんでいるような白亜の建物があった。

「わあ、まるで外国に来たみたい」

目を輝かせる美蘭にクスッと笑って、高良は車から降りる。
助手席のドアを開けて美蘭に手を差し伸べると、そのまま腕を組んで中に入った。

「えっ、なんて素敵なの」

レストランの内装は、オーシャンブルーの青一色で、海の中にいるような気分になる。
案内されたテーブルは真っ白なクロスが掛けられ、フラワーアレンジメントで綺麗に飾られていた。

「はあ、もううっとり。感激で胸がいっぱい」
「美蘭、まだお腹はいっぱいにしないでくれよ?」

高良は笑いながらドリンクメニューを開く。

「美蘭はワインにするか?」
「ううん。ノンアルコールにします」
「飲んでいいんだぞ?」
「これ以上酔ったら大変だから」

またしても高良は楽しそうに笑い、ノンアルコールのスパークリングカクテルをオーダーした。
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