解けない魔法を このキスで
本当の恋人に
ドキドキソワソワの平日を過ごし、金曜の夜がやってきた。

(新海さん、ほんとに迎えに来るのかな。何時に? どこまで?)

仕事中もスマートフォンを気にするが、高良からの連絡はない。
半信半疑で仕事を終わらせると、時刻は17時になっていた。

「じゃあね、美蘭。明日のプラージュの挙式よろしくね」
「うん。お疲れ様、未散ちゃん」

帰り支度をした未散は、最後に「ん?」と美蘭を振り返った。

「美蘭。顔が赤いけど、熱でもあるの?」

心配そうな未散に、美蘭は慌てて首を振る。

「ないよ、熱なんか全然ない」
「それもそれで怖いでしょ。36度はないと」
「ある、それなら全然ある」
「……なんか変だな。美蘭、頭は?」
「おかしくないよ!」
「いや、おかしいけど。まあ、熱がないなら大丈夫か。じゃあね、また来週」
「はい、さようなら!」

そそくさと見送ると、パタンとドアを閉める。
はあ、と肩の力を抜いた時、スマートフォンの着信音が鳴った。

ひえっと再び肩に力が入る。
急いで確認すると、高良からメッセージが届いていた。

【お疲れ様。これからそっちに向おうと思う。仕事は終わった?】

ほんとに来るんだ!と思いつつ、すぐさま返事を打つ。

【はい、終わりました。お待ちしています。どうぞお気をつけて】
【ありがとう。じゃあ、あとで】

ふう、と息を吐いてから、美蘭はまたハッとした。

「大変! なにも準備してない!」

バタバタと慌てて支度を始める。
じっくり洋服を選ぶ時間もなく、クローゼットから適当にワンピースを取り出して着ると、メイクをしてから髪をヘアアイロンで巻いた。

「挙式の準備もしなきゃ!」

明日の挙式の書類や持ち物を、仕事用のスーツやパンプスと一緒にバッグに詰める。

「えっと、あとはなに? あ、着替え!」

高良に言われていたことを思い出し、深く考えずに下着や化粧水などのお泊りセットも用意した。

「これで大丈夫かな」

確認しているとスマートフォンに電話がかかってきた。
思わずビクッとしてから表示を見る。

「新海さん! まさか、もう着いたの?」

そう思いながらとにかく電話に出た。

「もしもし」
『美蘭? アトリエの前の道路にいる。もう出て来られる?』
「はい、今行きます!」

戸締りをして電気を消すと、美蘭は玄関でブーツを履き、バッグを持って外に出た。
< 61 / 91 >

この作品をシェア

pagetop