解けない魔法を このキスで
「どうぞ、入って」

車で『プラージュ横浜』のペントハウスに戻ると、高良がドアを開けて美蘭を中に促す。

「お邪魔します」
「ソファに座ってて。今、紅茶を淹れる」
「あ、それなら私も」

二人でそれぞれコーヒーと紅茶を淹れると、ソファに並んで座った。
美蘭はタイミングを見て、そっとバッグからチョコレートを取り出す。

「あの、新海さん。よかったら受け取ってください」
「ん? なに?」

チョコレートに視線を落とした高良は、次の瞬間驚いたように目を見開いた。

「これって……」
「バレンタインのチョコレートです。でも新海さんは、もうたくさん職場の女性社員からもらってますよね」

そう言う美蘭の言葉は耳に入らなかったようで、高良はチョコレートを大事そうに受け取る。

「ありがとう。こんなに嬉しいとは……」
「ほんとに?」
「ああ。美蘭、俺は心から君が好きなんだ」
「えっ……」

いきなりなにを、と美蘭は息を呑んだ。

「自分でも呆れるくらい、どうしようもなく君のことが好きでたまらない。だけど君が俺を好きでいてくれる自信はまるでなかった」
「え? どうして?」
「君は優しいから、17年前のことを覚えている俺を無下に出来なかっただけなんだろうなって。本当は好きでもないのに、きっぱり拒絶するのが忍びなかっただけだろうって、そう思ってた」
「まさか、そんなこと」
「それなら、あの時の雰囲気に酔っていただけとか?」
「違います! 私は……、私だって、あなたのことが好きなのに」

口にした途端、美蘭の目からぽろぽろと涙がこぼれ落ちた。

「言ったでしょう? 10歳の時の私の言葉を覚えていてくれて、嬉しかったって。一緒にダンスを踊ってくれた時、王子様みたいだと思ったって。本当にそう思ったから言ったの、あなたは私のたった一人の運命の人ですって」
「美蘭……」

高良は両手を伸ばして美蘭を胸にかき抱く。

「ごめん、信じてないようなこと言って。君を泣かせてしまうなんて、本当にすまない」
「……ううん。私も受け身で自分から連絡もしなかったから。恥ずかしくて、あなたに好きってちゃんと言えなくて」
「ありがとう。今、俺は心から君が愛おしいよ」
「私もです。あなたのことが大好きなの……高良さん」

高良はハッとして顔を上げると、もう一度美蘭をぎゅっと抱きしめた。

「美蘭、愛してる。俺のたった一人の愛おしい人」
「私も、あなたが誰よりも大切です。高良さん」

ようやくホッとしたように微笑むと、高良は優しく美蘭を見つめる。
美蘭が微笑み返すと、高良は切なそうな表情を浮かべてから、優しく美蘭に口づけた。
それは二人がやっと本当の恋人になれた証だった。
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