解けない魔法を このキスで
一瞬で
『もしもし、美蘭? 仕事は終わった?』
「高良さん! さっき終わりました。高良さんは?」
『あと少し。その前に美蘭の声が聞きたくて。ホワイトデーに行きたいところ、決まった?』
「うーん、まだ迷ってるの。行きたいところがたくさんあるんだもん」
『それなら全部行こう』
「無理ですって!」

何気ない日常。
仕事終わりに高良と電話で話す時間が、美蘭にとっての楽しみだった。

最初は戸惑っていた高良との交際も、今では胸を張っておつき合いしていると言える。
二人の心の距離も縮まり、言いたいことはなんでも言える仲になっていた。

未散にも高良との交際を報告すると「ええー!?」と仰け反ったあと、「おめでとう!」と美蘭の手を取り、自分のことのように喜んでくれた。

高良は日本各地のホテルを視察に行くことも多く、忙しくてなかなかデートは出来ないけれど、お互い『フルール葉山』と『プラージュ横浜』に行った時は、直接顔を見て話が出来る。
それだけで美蘭は嬉しかった。
だがどうやら高良は不服らしい。

「美蘭、ペントハウスに引っ越して来い。常盤さんも結婚するなら、葉山のアトリエに通う時間が惜しいだろ? アトリエをここに構えたらいい」

事あるごとにそう言うが、美蘭は「だめです!」と断っていた。

「高良さんは副社長なんですから、立場を考えてください」
「言ってる意味が分からん。どうして副社長はだめなんだ?」
「ペントハウスは職場にあるんですよ? そんなところに彼女と同棲するなんて、公私混同です」
「バレないって」
「バレますって!」

つき合う前は高良のことを、自分よりずっと大人びた人だと思っていたが、いざつき合ってみると子どもっぽいところもある。

(そこがまたキュンとしちゃうんだけどね。私にしかそんな顔見せないし。ふふっ)

とにもかくにも、美蘭は幸せいっぱいの毎日を送っていた。
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