解けない魔法を このキスで
「ね、美蘭。ちょっとテラスでおしゃべりしない?」

豪華なフルコースの食事を楽しんだあと、未散が声のトーンを落としてそう言った。
こういう時は大事な話がある時だと、長いつき合いの美蘭には分かる。

「うん、いいよ」

隣の席の高良を見ると、行っておいでというように優しく笑って小さく頷いてくれた。
美蘭と未散はドリンクを手にテラスに出ると、ベンチに並んで座る。

「美蘭、私ね」
「うん、なあに?」
「ここに住んでも、いいかな?」
「ここって……、え、まさか、ミラノに?」

美蘭は驚いて、まじまじと未散の横顔を見つめた。

「うん。完全移住っていう訳ではないけど、拠点をここに出来ればなって。ミラノに来てから毎日がすごく刺激的で、ここに住んだら私の人生がもっともっと楽しくなるような気がしたの。もし彼との婚約が続いてたら諦めてた。だけど幸か不幸か今はフリーだし。ううん、幸か不幸かじゃないね、ラッキーなことに私は自由なんだもん。したいことをして生きていきたい」
「未散ちゃん……」
「夕べ、それとなく春日さんに相談してみたんだ。そしたら応援してくれた。就労ビザの手配とか、こっちの生活とかも手助けするよって言ってくれて。それにね、私がこっちに住めば、春日ブライダルの挙式に立ち会えるでしょ?」
「あ、そっか。ソルシエールのドレスを……」
「そう、私が責任持って調整するよ。ソルシエールのドレスを美蘭の望む形で花嫁に着てもらえる」
「すごい! それって最高だね」
「でしょ? 私って天才!」

得意気に胸を反らす未散に、美蘭も「うん、未散ちゃん、天才!」と笑顔になる。

「分かった。私も未散ちゃんの人生を精いっぱい応援する」
「ありがと、美蘭」
「でも、ちょっと寂しい」

そう口にした途端、涙が込み上げてきた。

「美蘭……、私も。だって私達、今までずっと一緒にいたもんね」
「うん……」
「だけどこれは別れじゃないから。会いたくなったら会おう。ミラノと日本なんて、飛行機で寝てる間に着いちゃうよ。あっという間だよ」
「あはは! そうだね」

二人で笑ってから、同時に半泣きの表情になり、どちらからともなくぎゅっと抱き合った。

「美蘭、私達のドレスをミラノでも見せつけようね」
「ふふっ、すごい野望だね」
「そうよ。未散様の野望はミラノを震撼させるわよ」
「ゴジラみたい」
「なにを!?」

また笑ってから身体を起こし、手を握り合った。

「未散ちゃん、これからもよろしくね」
「もちろん。末永くね」
「うん!」

最後は二人で満面の笑みを浮かべた。
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