解けない魔法を このキスで
ホールに戻ると、弦楽四重奏が奏でるワルツに合わせて、カップルが楽しそうにダンスを踊っていた。

「わあ、素敵だね」
「ほんと。映画の世界みたい」

二人でうっとりと見とれていると、春日が近づいて来た。

「二人ともここにいたんだ。イタリア男にナンパされなかった?」
「されまくっちゃった。ね? 美蘭」

あはは、と美蘭は苦笑いする。

「心配だな。じゃあ見せつけて牽制するか。未散ちゃん、私と踊っていただけますか?」

うやうやしくお辞儀する春日に、未散はおどけて答えた。

「よろしくてよ?」
「ははっ。では参りますか」

二人は腕を組んで前方に行き、ダンスの輪の中に交じった。
笑顔で寄り添い、春日のリードで楽しそうに踊る未散に、美蘭も笑みを浮かべる。

(未散ちゃん、良かった。あんなに辛いことがあったのに、ちゃんと乗り超えてみせるなんて。やっぱりすごいなあ、未散ちゃんは。私もがんばらないと!)

その時「美蘭」と優しく名を呼ばれて、美蘭は振り返った。

「高良さん」

微笑みながら美蘭の前まで来た高良は、右手を胸に当てて少し身を屈める。

「私と踊っていただけますか?」

美蘭も微笑んでドレスをつまみ、膝を曲げた。

「喜んで」

高良が差し出した左手に右手を重ね、二人でダンスの輪の中に加わる。
向かい合ってお辞儀をすると、片手を繋ぎ、もう片方の手を高良は美蘭のウエストに、美蘭は高良の肩に添えて踊り出す。

以前よりも息の合った二人のダンス。
心も距離も、あの時よりグッと近づいた。
美蘭は高良を信頼して身体を寄せ、そんな美蘭を高良は頼もしくリードする。
美蘭のブルーのドレスが軽やかに美しく広がって舞い、ホールの空気を夢のような雰囲気に染めていく。

すると弦楽四重奏の調べがゆったりとした曲に変わった。
それはシンデレラのテーマソング。

「A Dream Is A Wish Your Heart Makes」

人々ダンスをやめて、美蘭と高良に注目する。
見つめ合い、微笑みを浮かべながら踊る美しい「シンデレラと王子様」
見守る人達も笑みを浮かべて、いつまでもうっとりと二人に見とれていた。
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