冷酷社長の極上笑顔は私が独り占めさせていただきます
「昔、この劇団を家族で観に来たことがある。嫌いではないな。今日も楽しかった。両親の結婚記念日にこの公演のチケットを贈ったのは正解だった」
 
 自然な表情で笑う社長に、私の視線は釘付けになっていた。
 
「どうして……」
 
 思わず口走ってしまう。
 
「いつもそういう顔をしてくれないんですか」
 
 みるみるうちに社長の笑みは薄れていき、いつもと変わらぬ冷酷な表情に戻っていく。
 まるで周囲の温度が下がったように感じられた。
 それでも社長から目が離せない。
 その冷たい顔がずっと心に引っかかっていた。わけもなく気になるけど、なかなか抜けてくれない、小さな(とげ)みたいに――。
 
「これが俺のスタイルだからな。社員に冷酷だと言われても、俺一人くらいはそういう役を演じなければ成り立たない。会社とはそういうものだ」
 
「そうは思いません!」
 
 私は社長の勝手な思い込みに腹が立っていた。
 なぜかはわからない。自分でも驚くほど急に体が熱くなり、声も大きくなってしまう。
 
「社長が冷たい顔をして厳しい態度で社員に接したところで、社内がギスギスするだけでいいことなんか一つもありません。それよりもっと普通に、人間らしいところを見せてくれたほうが、みんなだって社長を素直に尊敬して『この人についていこう』と思うはずです」
 
 ずっと言いたかったことを言えてすっきりした。
 けれども、次の瞬間、さすがに言い過ぎたような気がして、急に全身から血の気が引いた。
 社長は私の反対側の肘掛に肘をつく。
 
「わかったようなことを言うな」
 
 その言葉を聞いた途端、まるで頭に冷水をかけられたようだった。
 体が硬直して、息が止まる。
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